覆面座談会 第6弾!

おことわり
本コーナーは、実際に行われた議論を再現したものですが、ざりがに.COM運営者の意見を反映するものではありません。
日時 :2007年10月7日
場所 :東京九段某倶楽部
参加者:A氏、B氏、C氏、D氏(各氏とも匿名希望)


A氏「やっと秋らしい爽やかな気候になりましたね。前回十五夜にお集まりいただいたばかりですが、今日は、「遺伝子組み換えとザリガニ」の問題について、議論したいと思います。」

B氏「生物の遺伝子組み換え技術のうち、最初に目指したことの一つが巨大生物作りで、通常の2倍の大きさのスーパーマウスがアメリカで誕生したのが1982年のことでした。このスーパーマウスは、組み換え技術によって姿形を変えた動物としては初めてのものでしたが、その後、巨大な魚や家畜を作り出す動きが広がり、今では、例えば、成長ホルモンを作り出す遺伝子を導入して3倍の大きさの巨大サケアメリカで開発され、市場化の途にあります。

C氏「ザリガニの世界で巨大種といえば、タスマニアオオザリガニAstapcosis Gouldiで、通常は30〜40センチほどあり、食べデはあるでしょうが、冷水性で飼育が極めて難しく、養殖には適しません。しかし、現在の遺伝子組み換え技術の水準であれば、伊勢海老なみ、あるいはそれ以上の、巨大アメリカザリガニを作ることも可能でしょう。アメリカザリガニなら養殖は容易ですから、食の観点からは魅力的な話ではあります。」

D氏「昔からアメリカでは食用アメリカザリガニの養殖が盛んで、レストランでボイルしたものが山盛りで出てきたりしますが、一々剥いて食べるのは少々面倒くさいですよね。その点、もし、伊勢海老なみの大きさとなれば、いいでしょうね。しかし、わが国の環境省は、巨大アメリカザリガニを絶対に認めないでしょう。例により、自然界に逃げ出して、生態系に影響を与えるのを恐れてね・・。」

B氏「ところが、遺伝子組み換えにより作られた生物は生殖能力が低く、子孫の生存率も低いというのが一般的です。ですから、環境省が心配するように、自然界に逃げ出しても大繁殖をしてしまうというようなことは無いのではないかと考えられています。むしろ、巨大生物のオスメス獲得する力が強い一方で生殖能力が弱く、子孫ができても生存率が低いため、環境中に逃げ出すと、その種全体が衰退していき最終的に絶滅する危険性があると心配されています。」

C氏「確かに、ザリガニの世界でも、メスを獲得するときのオス同士の戦いは熾烈で大抵大きい方が勝ちますよね。巨大オスは普通オスに勝つでしょう。また、ザリガニの交尾は、これは強姦ではないかと思うほどオスがメスを力ずくで押さえ込んでやりますから、大きい方が交尾に成功するでしょうね。大きいオスが断然有利です。しかし、巨大オスが普通オスを排除して交尾したとしても、巨大オスは精子の受精能力が低いので、交尾の後メスが産卵しても受精していないカラウチであったり、仮に運良く受精できたとしても仔ザリの生存率が低かったり、またたとえ生存したとしても生殖能力の低い子孫を再生産するだけなわけですね。これを代々繰り返すうちにこの種のザリガニは衰退し絶滅するというわけですか。」

B氏「アメリカのバーデュー研究所ニホンメダカを用いてシミュレーションを行ったところ、わずか6万匹の遺伝子組み換え魚が自然界に放たれただけで、40世代後には遺伝子組み換え・天然のいずれも絶滅してしまったという結果が出ました。のような現象は、トロイの木馬因んで「トロイの木馬遺伝子効果(Trojan Gene Effect)」と呼ばれています。

A氏「環境省は、わが国全体に蔓延したアメリカザリガニを駆逐・絶滅させたいと考えているわけですから、「トロイの木馬」たる遺伝子組み換えアメリカザリガニを自然界に放流すれば、わが国のアメリカザリガニが絶滅し、その目的を達成することができるということになりますね。環境省が忌み嫌い厳しく規制している遺伝子組み換え生物が、実は環境省が切望している外来種撲滅という大目標を達成することができるというのは、まさにパラドックスですね。」

C氏「他方で、保護をして純血を守れば守るほど、その種を絶滅に導くということも、忘れてはなりません。結果的には、遺伝子組み換え生物と同じ結果をもたらします。血が濃くなりすぎると生殖能力や子孫の生存能力が落ちることは、一般に知られていることで、外の血を入れることも時には必要なわけです。犬でも血統書付きの純血種よりも雑種の方が丈夫で頭も良いと言われますよね。日本産トキだって、純血を続けるのではなく、もっと早く中国産トキと交配させておけば、絶滅という最悪の事態を迎えずに済んだかもしれません。どこかの国のロイヤルファミリーは、ここ百年ほど子孫を残すのに苦労し、今も綱渡り状態が続いていますが、これは配偶者を特定の数ファミリーに限定するという制度を千年以上の長きにわたり続けたため、血が濃くなり過ぎているからだと指摘する人もいます。」

D氏「外来種を排除し在来種の純血を守るという環境省の政策は、超長期的にみればその種の生存力を弱め衰退させることになるのだということは、気付きませんでした。その観点からは、たまには亜種と交配させた方が、その種の保存のためには良いということになりますね。環境省は在来種と外来亜種との交雑を絶対阻止する構えで、これにより在来種の保存を図ろうということですが、これが実は在来種の保存ではなく超長期的には在来種の衰退絶滅を招くというのは、これまたパラドックスですね。」

C氏「人間による環境破壊に弱く個体数を減らし続けているニホンザリガニですが、チョウセンザリガニと交配されれば、少しは生存力が高まるのでしょうか? チョウセンザリガニは外来生物法で輸入が規制されておりますが・・。」

A氏「和歌山県などに棲息するタイワンザルや、千葉県などに棲息するアカゲザルが、ニホンザルとの交配により、在来種ニホンザル固有の「遺伝子を汚染」しているとの理由で、群れごと数百匹単位で捕獲・殺処分されてきましたが、我々人類と同じ霊長類の殺処分には、切ないものを感じます。純血だけを残すため、ニホンザルとの混血までもが殺されてきました。そもそも血統が近いので混血ができるわけですが、人間には許されている混血が、サルの世界では許されないわけです。」

C氏「人間世界でいえば、黄色人種は白人や黒人と結婚してはいけない、あるいは、日本人の遺伝子を守るため中国人との結婚を禁止すると言っているようなものです。万世一系の日本人の純血は未来永劫に守り通さなければならないと言っている超国粋主義者のようなものです。「遺伝子の汚染」という環境関係者がよく使う言葉が、ハーフやクォーターといった混血児たちに向けられたりしたら大問題となるでしょう。人間も同じ動物なのですが・・・。」

D氏「超保守主義とでもいうのでしょうか。生物の起源以来の長い歴史の中で、地球上の生物はいろいろと姿形を変えてきましたが、その有為転変をストップさせ現在の生態系を未来永劫に固定化しようという思想ですから・・・。しかし、それは、適者生存の原則に逆らい、在来種の純血を高め、種全体の衰退を招き、生物の絶滅を助長するものであろうとは、夢にも思ってもいないのでしょうね、某省の超保守主義者たちは・・・。」

C氏「ペットに関していえば、品種改良により在来種には無い面白い生物を作り出すという営みが、ペット作出の歴史でした。我が家のトイプードル君やチワワ君のご先祖様はオオカミであるわけですが、今やオオカミとは似ても似つかぬ姿になっています。しかし、ペット犬については、自然界に出ればオオカミという貴種と交雑し、その「遺伝子を汚染」するものとして忌み嫌うというのが、某省の超保守主義者たちの態度でしょう。ペット猫も同じで、イリオモテヤマネコのような自然界のネコ科の「遺伝子を汚染」するものという位置づけです。」

A氏「遺伝子組み換え生物の開発は、食用の家畜よりもペットの方が先行したという事実は、この技術のペットに関する需要が極めて高いということを物語っています。日本でもかつては台湾から輸入された緑蛍光色に光るメダカ「ナイトパール」ペットショップに売られていました。これは、台湾のタイコン社が、2001年に台湾大教授と共同開発しクラゲの発光遺伝子をメダカに組み込んだもので、台湾はもちろん、日本、香港、マレーシア、フランス、アメリカ等世界各国にペット用として出荷されていました。これは、日本で2004年4月に遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律いわゆるカルタヘナ法が施行される以前の話です。」

B氏「発光遺伝子はクラゲから取り出すことが多いのですが、ホタルの遺伝子を用いることもあります。元々このクラゲの発光遺伝子は、遺伝子組み換えが成功したか否か識別するための「マーカー遺伝子」として広く用いられてきました。光りますから簡単に見分けることができ、遺伝子組み換えの成否が一目瞭然であるからです。こうして、クラゲの発光遺伝子を導入した光る猿や光る豚作られたことあります。

C氏「ブルー・ザリガニが蛍光色に光るなんてゾクゾクしますね。」

A氏「ペット業者は、この蛍光色に光るメダカに生殖能力は無く在来のメダカと交雑する心配が無いので、2004年のカルタヘナ法施行後も承認されるだろうと踏んでいましたが、結局環境省から承認は下りなかったようですね。」

D氏「「例え生殖能力は無く一代限りのメダカであっても、自然界に流出すると、在来種のメダカと餌の取り合いなど生活圏で競合し、在来種の生存を脅かす恐れがあるのでダメ」というように、理屈は簡単に付けられますからね。しかし、この理屈は、在来種以外は全部ダメという結論になるのですよ。」

B氏「今年の4月にも、サンゴからとった赤色蛍光タンパク質を組み込んだ「ゼブラダニオ」がペットショップで売られ、環境省が業者に回収などの措置を求めるとともに再発防止を指導するという騒ぎが新聞に報道されていたので、皆さんご存知だと思います。」
(参考)4月25日付毎日新聞産経新聞

C氏「かつて、外見は人類に似ているが蛍光色に光る宇宙人があちこちで目撃されました。シドニー・シェルダンも蛍光宇宙人を目撃した一人で、それを題材にした小説も書いています。文明が高度に発達しているこの宇宙人の星では、コスメティック目的で発光遺伝子を宇宙人自らの遺伝子に組み込むことが流行っているのではないでしょうか?」

D氏「ホワイトやブルーはもちろんのこと、スーパーレッド、オレンジ、イエローなど、最近はペット用アメリカザリガニの色のバラエティーが増えてきたので、これらに蛍光色が加わるのは時間の問題だと思われましたが、環境省のカルタヘナ法の運用を見ますと、まず承認は下りないでしょうね。でも、蛍光色は明らかに遺伝子組み換えによるものと判りますが、スーパーレッド、オレンジ、ピンク、イエロー等のザリガニが、遺伝子組み換えによるものなのか、従来の交配による品種改良の結果なのか、自然界における突然異変なのか、結果があるだけで原因はわからないはずです。疑わしきを取り締まるために、在来種と異なるペット生物全体に規制がかかることを私は恐れますね。」

A氏「生態系の保護はもちろん重要なことですが、ペット愛玩の自由に関する基本的人権面からの議論もして欲しいですね。要するにバランスの問題です。というところで今日はお開きといたしましょう。」