Rural Industries Research & Development Corporation

The New Rural Industries
A handbook for Farmers and Investors

マロン

クレイグ・ローレンス 著
 東京ザリガニ研究所 訳

はじめに

 マロン(Cherax tenuimanus)は、淡水ザリガニの大型種で、ウエスタン・オーストラリア州南西部多雨森林地帯の主要な永久河川に棲息している。
 マロンは、世界的にみても大型種の仲間に入るため、養殖の対象として関心を持たれてきた。
 マロン養殖の研究は、ノエル・モリシー博士によって1970年代半ばに始められた。彼の最初の研究は、マロンのライフ・サイクルを明らかにすることであった。そして、25年の歳月をかけて、マロンの準集約的養殖システムを確立した。1970年代は養殖が試みられた初期段階であったが、当時一般にマロンについて僅かな知識しか得られていなかったところ、モリシー博士にが多くの情報を公開し養殖業者の便に供したため、マロンの基本的な生態が理解され、養殖に必要な知識が広く得られることとなった。
 マロンは、サイズが大きく、品質が高く、ヨーロッパにおいて減少してしまったヨーロッパの在来種の代用となり、重大な病気に感染しておらず、主要な海外市場に生きたまま出荷できるということなどのため、他のオーストラリア産ザリガニと同様、海外市場で多くの需要を得ている。

marron area map

要  点

  • マロンは世界的にみても大型種の仲間である。
  • マロンは海外市場にも生きたまま輸出できる。
  • 病気の感染のない、生きたマロンに、海外のマーケットデ大きな需要がある。


マーケティング

 生きたマロンの主な輸出先は、アジアとヨーロッパである。マロンの養殖業者は、現在、成体池用の幼体販売と、国内・外への成体販売を行っている。
 マロンの強みの1つは、水から出した状態で生きたまま出荷でき、オーストラリア内の主要都市だけでなく、高値のつくヨーロッパやアジアの市場に新鮮なまま届けられるということである。淡水ザリガニに対する海外の需要は伸び続けている。これには多くの要因が考えられるが、特に、昔から淡水ザリガニを消費してきたヨーロッパで、ザリガニ病(ザリガニかび病)のため、在来種が大量に死んでしまったことにより、ヨーロッパ内での供給が減ったため、(オーストラリア産の)需要が伸びているということが上げられる。オーストラリア大陸は、ザリガニ病菌に汚染されていない唯一の大陸であるため、厳しい検疫法令により、このステータスは維持されなければならない。
 マロンは、個々の養殖業者により出荷されるほか、大きな注文に対処するため小規模な養殖業者が寄り集まって作った協同組合によっても出荷される。この協同組合は、最近作られるようになったものである。各養殖業者のマロンにつけられる等級と値段は、オーストラリアの中でも変動はあるが、平均的な等級と値段は表1の通りである。養殖業者により洗浄、選別、梱包が済まされているマロンについては、高値がつけられている。より大きいマロンには、一般的に市場で高値がつけられているが、これは、より大きいマロンに対する需要が高いことと、より大きく育てるのには時間がかかるということを反映している。
 1980年代末に、業者がマロンの出荷よりも事業拡大のための幼体の確保に重点を置いたため、マロンの成体の年間生産高が減少したが、それを除けば、1970年代以降マロンの生産は着実に上昇している。最近では、マロン養殖の利益が更に上昇している。これは、一つには、マロンはオーストラリア産で最も高い評価を受けているザリガニであるということにある。このため、良く設計され、建設された養殖専用池への投資が増え、ウエスタン・オーストラリア州及びサウス・オーストラリア州では養殖による生産量が増加している。

表1. マロンのサイズ別出荷価格       

サ イ ズ

出 荷 価 格
($/kg)

71-100g
101-130
131-160
161-190
191-220
220g+

16.00
18.00
20.00
22.00
24.00
26.00


生産に必要な事項

 現在、ウエスタン・オーストラリア州、サウス・オーストラリア州及びノースサウス・オーストラリア州でマロンの養殖が行われている。ビクトリア州ではマロンの養殖は許可されていない。マロン養殖の可能地域を地図に示したが、これは、養殖に適した温度、水質、土壌という観点から選んである。
 マロンは12.5度以下の水温では育たず、また、24度で最も成長する。24度以上の水温下ではマロンの成長は急激に低下し、30度以上の水温では長期間生きてゆくことは不可能である。どのくらいの時間その温度下に置かれるかにもよるが、30度以上ではいずれにせよ死ぬこととなる。
 マロンは、通常pH 7.0〜8.5の水質で棲息する。
 溶存酸素量は6ppm以上に保たれるべきであり、3ppm以下になるとマロンにストレスがかかる。マロンは低溶存酸素量に弱いため、池においてもエアレーション行うことにより、適度な溶存酸素量を確保するとともに、水の層化、底水の滞留、毒性物の沈殿等を回避する。
 マロンは真水から15pptまでの塩分に耐えられるが、養殖に際しては低レベルの塩分が望ましく、塩分が6〜8 ppt以上になると成長率が低下する。


変種

 マロンはウエスタン・オーストラリア州の南西部に棲息しているが、同州では多くの孵化場が許可を得て操業している。これらの孵化場では1歳以下の幼体をウエスタン・オーストラリア州その他の養殖場に出荷している。
 大きな養殖場では自ら幼体の養殖を行っている。マロンは初春に交尾し、メスのサイズにより450〜900個の卵を産卵する。そして、幼体は初夏に親離れをする。孵化場の生産性は、メス1匹当たり何匹の0歳幼体を産出できるかで決まる。
 種親には、2歳以上、通常3歳の個体を用いる。繁殖期以外の期間に、平方メートル当たり4匹、雌雄比率3対1で、種親を小さめの種親用池に入れるとともに、十分な餌を与える。
 繁殖期が近づいたら、交尾のため、100〜150平方メートルの産卵・孵化用池に移す。約75%のメス2歳個体は抱卵するので、その後、オス及び抱卵しなかったメスを引き離す。人工水草を用いれば、定期的な観察が容易で、幼体の親離れ状況もモニターできるほか、これにより幼体の待避場所をも提供することができる。共食いを防止するため、幼体が親離れしたら、直ちにメスの成体を取り出す。
 マロンには、少なくとも3種の変種が存在するが、この3種他の生態について科学的調査はまだなされていない。


養殖

 ウエスタン・オーストラリア州では、農業用水池、専用池、水槽などでマロンが飼育されてきたが、水槽では、栄養を補う完璧な餌を欠くことと高密度下で成長が鈍化することなどにより、飼育の成果には限りがある。
 農業用水池や専用池での飼育は、ウエスタン・オーストラリア州では広く行われている方法であるが、両者の効率性には大きな差がある。投餌しない農業用水池では、飼育するマロンの数量にもよるが、通常1ヘクタール当たり年間100〜300キログラムしか生産できない。他方、準集約専用池では、飼育するマロンの数量にもよるが、毎日の投餌により、1ヘクタール当たり年間1000〜4000キログラム生産できる。準集約専用池では、排水設備を備え、マロンをグレード分けするので、管理者にとっては生物的にも経済的にも生産性を最大化できる。
 準集約専用池における養殖と農業用水池における養殖の比較検討はモリシーの論文(1992年)を参照のこと。
 準集約の成体池は、普通1,000平方メートルの長方形の池である。これより大きな池の建設も可能ではあるが、管理が難しくなる。専用池は幅最大20〜25メートルとし、長い縦方向を風向に合わせることにより、酸素の溶存量が向上する。
 マロンの養殖池は、道を挟んで隣り合うように配置する。池にはパドルホイール式のエアレーションを備えるとともに、一定量の水を補填して蒸発や浸透により失われた水を補う。
 池の底床は一番浅いところで水深1メートル、一番深いところで水深2メートルとし、その間にスロープを設ける。底床は、石灰石、砂礫等で固め、その上に、シェルターとなる人口水草を1000平方メートル当たり100〜200束備える。底床に3平方メートルの排水口を設けることにより、収穫を容易とするとともに、次のザリガニを入れる前の掃除を容易とする。
 準集約成体池には、上に防鳥ネットを張るとともに、人工的なシェルターを備えることにより、天敵から守る。また、マロンの脱走を防ぐとともに、ネズミ等の陸棲動物の侵入を防ぐため、周囲にフェンスを張り巡らすことが必要である。
 0歳の幼体は、小さめの産卵・孵化用池に約6カ月入れる。成体池には0歳以上の個体を、冬の中頃に、1平方メートル当たり3〜5匹の割合で入れる。
マロンは雑食性で、池や川の底に溜まった物質が腐敗した腐植等を餌としている。
 養殖業者は、戸外の池ではマロン用ペレット飼料と自然食のコンビネーションを用いている。マロンの池に投餌されるペレット飼料は、マロンに直接食されているほか、池の食物連鎖にも寄与している。マロンは2キログラムにまで成長することが報告されているが、それより小さいサイズで収穫する方が経済的に優れている。
 水温、栄養、飼育密度等に関する養殖環境にもよるが、マロンは12カ月で60〜100グラム、24カ月で100〜300グラムに成長する。
 マロンの「殻付きテール」は体重の43%を占めるが、この割合は、他の養殖淡水ザリガニより高く、また海産のイセエビの40%をも凌ぐ。
 マロンの養殖に関し、より詳しい情報を要する場合は、ノエル・モリシー博士の「An Introduction to Marron and Other Freshwater Crayfish Farming (マロンその他の淡水ザリガニ養殖入門)」(ウエスタン・オーストラリア州水産部1992年版)を参照のこと。


病気

 他の淡水ザリガニと同様、マロンの甲殻やエラには、表在生物と呼ばれる小さな付着生物が宿る。繊毛を有する原生動物であるエピスティリスや小さな扁形動物であるティムノセファラ等があるが、これらは数が非常に増えた場合に問題を起こすほか、販売の際、見栄えが問題となることがある。表在生物が直接ザリガニに害を及ぼすわけではないが、これは水質悪化と成長低下の前兆ととらえられる。
 マロンに関しては、胞子虫とセロハニアにより引き起こされる2種類の病気が報告されている。
 セロハニアは、白尾病(綿尾病、白磁病)を引き起こす原生動物である。セロハニアは、東部の州のザリガニ及びウエスタン・オーストラリア州のギルギーで報告されているが、ウエスタン・オーストラリア州のマロンでは、発見されていない。このため、ウエスタン・オーストラリア州からの感染を免れている地域にセロハニアが持ち込まれることのないよう、ザリガニの移入は厳しく制限されている。
 海外からウエスタンオーストラリア州へザリガニを輸入することは、ザリガニ病の病原菌であるアファノミセス・アスタシを持ち込む恐れがあるため、全て禁止されている。


収穫と出荷

 他の淡水産甲殻類と異なり、マロンは干ばつから逃れるための「掘り」は行わない。このため、収穫は容易であり、また池の側壁の保全を心配する必要もない。
 マロンの収穫は、通常、排水した後、マロンを手づかみで集めることにより行われる。1日の中でも涼しい時間を選んで収穫することが望ましい。収穫後は、直ちにエラを洗浄し、冷涼で湿度の高い場所に保管する必要がある。エラに付着している沈殿物にバクテリアが棲息しているが、洗浄することによりこれに感染して死ぬことを防げる。
 マロンは生きて輸出されるので、処理は殆ど必要ない。輸出用に梱包する前に、収穫されたばかりのマロンを、浄化水槽に入れる。浄化水槽では、餌を与えずに最低48時間を置くことにより、マロンの腸内をきれいにし、味を高める。
 マロンはその状態と重さによりグループ分けする。
マロンは、水の外でも何日も生きられるため、冷涼さと湿度を保てば生きたまま出荷できる。しかしエアレーションのない水に沈めておくとマロンは酸欠死する。目的地まで最高の状態を保つようにするため、輸出前に冷やし、保冷材を入れたポリスチレンの箱の中に、発泡材と一緒に梱包する。


生産と出荷の経済性

 マロンの準集約的養殖の立ち上げコストは1ヘクタール当たり平均5〜6万ドルである。これは、池の建設、底固め、防鳥ネット、電気、エアレーション、排水口等にかかる費用である。適正に管理すれば、準集約専用池からは、1ヘクタール当たり大きめのマロンなら年間2,500キログラム、小さめのマロンなら4,000キログラム産出することができる。
 収入と費用は、各マロン養殖場の企業秘密であるため、正確な情報は入手困難であるが、ある見積によれば、適正に池が建設され管理されれば、マロン養殖の租収入は1ヘクタール当たり年間4万ドル、操業費用は同約1万5千ドルとなる。このため、1ヘクタール当たり年間約2万5千ドルの純収入を上げることができる。
 結果として、マロン養殖では年間約30%の投資回収率が期待できる。ただし、他の養殖同様、養殖の方法や場所の選定により投資回収率は異なってくる。


主要統計


 ウエスタン・オーストラリア州では、マロン養殖の多くは準集約で行われる。この業界は、この10年間着実な成長をみせてきた。最近ではサウス・オーストラリア州にもマロンが導入され、多くの養殖が行われるようになっている。

表2. オーストラリアのマロン生産高 (t)       

西 暦

SA
(t)

WA
(t)

合 計
(t)

1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996

0
0
0
2.1
2.5
1.1
1.8
3
5
6

1.8
1.9
9.4
12.1
15.1
16.4
19.5
16.7
18.1
23.5

1.8
1.9
9.4
14.2
17.6
17.5
21.3
19.7
23.1
29.5


主要コンタクト先

Craig Lawrence
Research Scientist (Aquaculture)
Fisheries Department of WA
P.O. Box 20
North Beach, WA 6020
Phone: (08) 9246 8444
Fax: (08) 9447 3062

George Cassells
Senior Technical Officer
Marron Research
Fisheries Department of WA
PO Box 20
North Beach, WA 6020
Phone: (08) 9246 8444
Fax: (08) 9447 3062

Dr Michael Geddes
The University of Adelaide
SA 5005
Phone: (08) 8303 5934
Fax: (08) 8303 4364

Department of Primary Industry
South Australia
Aquaculture Group
GPO Box 1625
Adelaide, SA 5001
Phone: (08) 8226 2316
Fax: (08) 8226 2320

Contact names and addresses
for local freshwater crayfish
industry associations are
published regularly in
Freshwater Farmer Magazine.

Freshwater Farmer Magazine
published quarterly
Les Gray
P.O. Box 712
MSC
Torrens Park, SA 5062


主要参考文献

Lawrence, C.S., Morrissy, N.M., Penn, J. and Jacoby, K. (1995) Marron (Cherax tenuimanus). Aquaculture WA,No. 2. 4,p.

Morrissy, N.M. (1976) Aquaculture of marron, Cherax tenuimanus (Smith) Part 1: Site selection and the potential of marron for aquaculture. Fisheries Research Bulletin, No. 17.

Morrissy, N.M. (1976b) Aquaculture of marron, Cherax tenuimanus (Smith) Part 2: Breeding and early rearing. Fisheries Research Bulletin, No. 17.

Morrissy, N.M. (1990) Optimum and favourable temperatures for growth of Cherax tenuimanus (Smith) (Decapoda: Parastacidae). Australian Journal of Marine and Freshwater Research, Vol. 41 (6), 735-46.

Morrissy, N.M. (1992) `An introduction to marron and other freshwater crayfish farming in Western Australia.} Fisheries Department of Western Australia. 36 p

Morrissy, N.M., Walker, P. and Moore, W. (1995) Predictive equations for managing semi-intensive growout of a freshwater crayfish, Cherax tenuimanus, on a commercial farm. Aquaculture Research, Vol. 26, 71-80.


著者 クレイグ・ローレンスについて

クレイグ・ローレンスは、英国スターリング大学で、養殖学修士取得。海外での養殖経験も豊富。ウエスタン・オーストラリア州水産部で、養殖学研究者として、6年間勤務。連絡先は、主要コンタクト先を参照のこと。

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1998年1月2日