特定外来生物に指定 悲しからずや タンカイザリガニ 滋賀県高島市 保護が一転規制に バスの餌食、ブームで捕獲も
2006 年 11 月 6 日
東京新聞

 滋賀県高島市今津町の人工湖「淡海湖」だけに生息するタンカイザリガニが、特定外来生物に指定され、地元の自然愛好家らは戸惑っている。長年、「自然のシンボル」として大切に守ってきたものが一転、規制の対象になってしまったからだ。外来生物をめぐる周辺の事情を探った。

 JR近江今津駅から車で約三十分。アップダウンが激しい山道を進むと、深い青色に輝く淡海湖(周囲約三キロ、面積約十二万平方メートル)にたどりついた。「以前は湖底をのぞき込むと、タンカイザリガニがたくさん確認できた。それが、今ではほとんど姿を見ることがなくなってしまった」。現場に同行してくれた元小学校の校長で、「環境を守るいまづの会」会長の松見茂さん(79)は、肩を落とす。

 タンカイザリガニは一九二六年、米国・オレゴン州から食用に輸入されたウチダザリガニが、農業用のため池だった淡海湖に放流され、定着した亜種とされている。英語名は、シグナルクレイフィッシュ。体長は一五センチ前後あり、アメリカザリガと比べて腹幅が広く、鮮やかなコバルトブルーの脚節が特徴だ。

 「それがここ十年ほどで激減してしまいました」と松見さん。その理由の一つが、ブラックバスなどの外来魚。「誰かが放流したものが大繁殖。ザリガニは大好物だから、餌として食べられてしまうんです」。それに加えて、最近のザリガニブームで飼う人が増えたことも拍車を掛けた。「淡海湖にしかいないということで、希少価値が上がり、捕りに来る人が急増しているのでは」とみる。

 こうした状況を知った今津中学校「エコ・スクール委員会」の生徒らは、五、六年前からタンカイザリガニの保護活動を開始。毎年、夏休み期間などを利用し、ブラックバスの駆除に取り組んでいる。

 一方、北海道や東北地方などに分布するウチダザリガニは激増。日本の固有種で、絶滅危惧(きぐ)種に指定されているニホンザリガニの巣穴を荒らすなど、生態系に深刻な影響が出ている。そのため今年二月、ウチダザリガニとその亜種であるタンカイザリガニが、外来生物法に基づく特定外来生物に指定された。

 滋賀県自然環境保全課は「タンカイザリガニは淡海湖以外に広がっていることはないようなので現段階では静観している。だが、もし広がるようなことがあれば、駆除も検討する必要がある」と話す。琵琶湖博物館学芸職員の桑原雅之さん(水産生理学)も「もともとは繁殖力が強い種。現在ペットとして飼われているものが放流されてしまう可能性がゼロではないため、指定は致し方ないのでは」と指摘する。

 だが、松見さんは「自然豊かな今津のシンボルとして守ってきたのに、外国から来たからといって規制の対象にするのはあんまりだ」と納得がいかない様子。保護に取り組む同中学校三年生の藤原海君(15)も「生きているタンカイザリガニをいつか見たいと思って、頑張って活動してきたのに…」と複雑な表情だ。

 こうした“混乱”は岐阜県各務原市(旧川島町)でも起きていた。国営木曽三川公園を彩るオオキンケイギクが特定外来生物に指定されたため、その開花時期に合わせて毎年五月に開かれていた「フラワーフェスタ」が今年から中止となった。前年までは「オオキンケイギクまつり」と銘打ち、広く親しまれていただけに、関係者は「残念です」ともらす。

 環境省野生生物課の外来生物担当者は「外来生物によって生態系や農水産業に被害が出ている以上、規制する必要がある。理解をしてほしい」と話している。

 特定外来生物 外来生物法に基づいて指定され、栽培や飼育、販売、譲渡などを禁止している。違反すると、懲役三年以下もしくは三百万円以下の罰金。現在、指定されているのは八十三種類。