東京新聞

生態系に深刻な影響 ウチダザリガニ 日本在来種の巣穴荒らす 北海道・然別湖 防除大作戦 資源として活用も模索
2007 年 7 月 9 日

 米国から約八十年前、日本に食用として持ち込まれた「ウチダザリガ」。その数は年々増え続け、日本の在来種「ニホンザリガ」の巣穴を荒らすなど、生態系に深刻な影響を及ぼしている。環境省は昨年、「特定外来生物」に指定。それ以来、専門家や地元のボランティアらが防除作業を続けている北海道鹿追町の然別(しかりべつ)湖を訪れ、その取り組みを見た。(酒井ゆり)

 然別湖は、大雪山国立公園内の標高約八百十メートルにある天然の淡水湖だ。六月下旬、恒例となったウチダザリガの防除作業を四日間にわたって実施。環境省や大学の研究者、町関係者、ボランティアら延べ約五十人が参加した。

 この時期に防除をするのは「まだメスが抱いている卵がふ化する前。だから、効率よく捕獲することができるんです」と環境省・上士幌自然保護官事務所の島影芳治さん(61)。

 捕獲に使ったのは、サンマの切り身を入れたカニかご。前日から湖内百カ所に仕掛けておいたものを引き上げると、どのかごにも元気のいいウチダザリガが四、五匹は掛かっていた。

 総数は、三回の引き上げで千三百五十九匹。その生態を調べるため、一匹ずつ性別や大きさ、卵の有無なども確認した。

 この結果に、地元出身で長年、ウチダザリガの調査を続けている独立行政法人「土木研究所」(茨城県つくば市)の専門研究員・中田和義さん(31)は「生息している場所が少しずつ広がっていると感じた。今後も粘り強く防除していく必要がある」と指摘した。

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 然別湖で、初めてウチダザリガが確認されたのは一九九〇年ごろ。当初は湖西側のごく一部でしか見られなかったが、分布域は年々拡大。中田さんの調べでは、二〇〇一年からの三年間で、北側に約一キロ、南側に百五十メートルも広がっていた。

 湖の北端には、然別湖だけにすむ道の天然記念物「ミヤベイワナ」が産卵する川との合流地点があり、「これ以上ウチダザリガの分布域を拡大すると、ミヤベイワナにも何らかの影響が出るかもしれない。地元でも、早急な対策が必要と考えられてきた」と中田さん。

 そこで昨年、特定外来生物に指定されたことをきっかけに、環境省と町などが協力して防除作業をスタート。これまでに計約三千八百匹を捕獲してきた。

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 ただ防除するだけでなく、「資源」としての活用も模索している。

 一つは、環境教育。地元の小中学生らの防除体験や、旅行会社とタイアップした「ウチダザリガ捕獲ツアー」を開催。「地元の自然を知るのにいい教材。防除の必要性も理解してもらえる」と島影さん。

 もう一つは食材としての魅力。捕獲したザリガを、地元のホテルで“名物”として提供することも検討されているという。実際、防除作業で毎回、参加者に試食してもらっている。殻が堅くてむくのが大変だが、味はくせがなく食べやすい。特にハサミの部分は、カニの身のような甘味があり、とてもおいしかった。

 中田さんは「いろいろな取り組みを通して興味を持ってもらい、継続的な防除作業ができるような態勢をつくりたい」と話している。

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 「ザリガワールド」(本社主催)は二十一日から九月二日まで、名古屋市科学館で開催。然別湖のウチダザリガなど水生生物約二十種類を展示する。問い合わせは、同館=電052・201・4486=へ。

 ウチダザリガ 体長15センチを超える大型のザリガ。雑食性で繁殖力が強い。英語名は「シグナルクレイフィッシュ」。1926年にアメリカから食用として輸入され、北海道の摩周湖に持ち込まれた後、各地に広がった。北海道や東北地方にしかいないニホンザリガの巣穴を荒らすなど、生態系に深刻な影響が出ている。滋賀県の淡海湖にいる「タンカイザリガ」はこの亜種。