特定外来生物・ウチダザリガニ 悪者は美味
2008 年 11 月 1 日


◆プリプリ濃厚エビ食味/三国シェフも太鼓判 

 生態系に悪影響を与える特定外来生物が、とびきりの高級食材として注目を集めている。北海道・阿寒湖産の「ウチダザリガニ」。本来は駆除すべき“嫌われ者”を、もっと食べたいという人もいるのだけれど……。(北見支局 森井雄一)

 ウチダザリガの原産地は北米で、1930年に北海道・摩周湖に食用として放流された。体長は10?15センチ。ニホンザリガなどの在来種を駆逐する強い繁殖力を武器に、国の天然記念物となっている春採湖(釧路市)のヒブナなどの生存を脅かし、東北地方にも生息域を広げている。

 そんなやっかいなものも海外なら「レイクロブスター」という名の高級エビ。料理専門家の間では知る人ぞ知る逸品だという。

 「プリプリしたおいしさに驚いた」と太鼓判を押すのは、東京・四谷の仏料理レストラン「オテル・ドゥ・ミクニ」のオーナーシェフの三国清三さん。

 ウチダザリガと約10年前に出会ったのをきっかけに、サラダ仕立てにしたり、殻でソースを作ったりして店のメニューに加えている。

 札幌市のワインバー「jose(ホセ)」の尾崎明宏オーナーも、姿そのままの「ゆで上げ」を「上品な身と濃厚なみそは白ワインにぴったり」と絶賛する。

 ◆出荷に制限

 食べてみると、普通のエビより風味と食感が濃厚でなかなかの美味。高級食材だとわかれば使い道がありそうだが、ハードルは意外に高い。

 ウチダザリガは外来生物法で生きたままの運搬が原則禁止され、食用として出荷するにも許可が必要。

 年間の国内出荷量は3?4トンで、北海道の阿寒湖漁協が一手に取り扱う。同漁協が出荷できるのは、2005年6月の同法施行前から、たまたま漁業権を持っていたからで、そもそも、魚と一緒に漁網に絡まる邪魔者も売ってしまえ、という発想だった。

 それが、全国の高級料理店などから注文が相次ぎ、今や1キロ1500円前後の高値に。ほかにも北海道内の自治体やNPOが生態系維持のため、昨年度は計約1万9000匹(推計約1トン)を捕獲しているが、漁業権がないため販路には乗せられない。

 外来種では先輩格のブラックバスも、駆除と商売を両立させようという試みは過去にあった。一大生息地の琵琶湖を抱える滋賀県漁連によると、「『ゲテモノ』の印象もあって普及しなかった」という。

 「味が良いというだけでは商売にはつながらないのです」。外来生物の一つ、ブルーギルを使った「エコバーガー」の試験販売をしたこともある福井大教育地域科学部の保科英人准教授もそう指摘する。

 「駆除が進めば収穫量は落ちる。だからといって養殖するわけにもいかない。外来生物を安定供給するのは難しいですよ」

 増えても困るし、完全に駆除されると食通には痛い。うまい扱い方はないものだろうか。

 

 〈特定外来生物〉

 海外から入ってきた生物で、生態系や人の生命に被害を及ぼす恐れがあるとして、アライグマやブラックバス(オオクチバス)、セアカゴケグモなど96種類が外来生物法で指定されている。輸入、飼育、運搬等は禁止され、法人による違反は1億円以下の罰金。

 

 写真=真っ赤にゆであがったウチダザリガ(札幌市の「jose」で)


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