カエルツボカビ症はザリガニが拡散?
2012年12月19日
ナショナル・ジオグラフィック・ニュース
世界各地の両生類の間で感染症が流行し、一部の種では絶滅も懸念されている。このほど、この感染症を拡散している真犯人が明らかになった。ザリガニだ。
この数十年、カエルツボカビ(Batrachochytrium dendrobatidis)によって引き起こされる感染症がカエルなどの両生類の間で蔓延している。300以上の種が絶滅の危機に瀕しており、すでに絶滅してしまった種も多いと考えられる。しかし、体が小さく個体数の少ない種の場合、地上からその姿が消えてしまったことを確認するのは難しい。
「この感染症はひどい事件だ。地球上の生命の歴史において、私たちの知る限りのあらゆる感染症の中で、最もひどい事件だと言っていい」と、サンフランシスコ州立大学の保全生態学者バンス・ブリーデンバーグ(Vance Vredenburg)氏は言う。同氏はカエルを専門としており、今回の研究には関与していない。
カエルツボカビは1990年代の終わりに初めて確認された病原菌だ。以来、その拡散やカエルツボカビ症の発症のしくみについて研究が重ねられてきた。
中でも大きな謎とされてきたのは、カエルツボカビがカエルのいない池でも生息を続けられるしくみについてだ。研究者はそのような事例を何度も目にし、当惑するしかなかった。ある池で両生類が一掃されたとする。しばらくして、カエルなりイモリなりが何匹か帰ってきてその池に住み着いたとしても、その個体もやはり死んでしまう。このカビの宿主となる両生類は、その池にはしばらく存在しなかったにも関わらずだ。
考えられる理由の1つは、カエルツボカビがほかの生物にも寄生しうることだ。タンパにある南フロリダ大学で生態学を学ぶ大学院生ティーガン・マクマホン(Taegan McMahon)氏は、カエルツボカビの宿主となっている可能性の高い生物種をいくつか観察した結果、ザリガニに的を絞った。この淡水の甲殻類が“容疑者”であるとされたのは、広く分布していることと、カエルツボカビの増殖に利用されるタンパク質のケラチンが、ザリガニの体に多く含まれることが理由だ。
マクマホン氏が実験室環境でザリガニをカエルツボカビに接触させたところ、ザリガニは感染した。約3分の1の個体は7週間以内に死に、生き残った個体の大部分は保菌者となった。マクマホン氏が感染したザリガニをオタマジャクシと同じ水槽に入れると(ただし網で分離して、ザリガニがオタマジャクシを食べてしまうことはないようにした)、オタマジャクシはカエルツボカビに感染した。また、マクマホン氏らのチームがルイジアナ州とコロラド州の湿地帯で現地調査を行ったところ、カエルツボカビに感染したザリガニが確認された。
これらのことから、ザリガニはたしかにカエルツボカビの“貯蔵庫”の役目を果たしていることが分かった。カエルツボカビは一時的にザリガニに寄生して生きながらえて、また両生類の体に戻る機会を窺っているらしい。カエルツボカビの正確な起源がどこなのか、なぜ近年急速に問題化しているのか、などといった疑問にはいまだ明確な答えが出ていない。しかし今回の研究によって、その拡散ルートの1つの可能性が示された。ザリガニは魚釣りの餌として使われるので、池から池へと移動させられることがあるし、食用に、あるいは愛玩用に世界中で販売されている。
今回の研究は、カエルツボカビ症に関する未解決の疑問すべてに回答するものではない。たとえば、ザリガニは一般的な生物ではあるが、どこにでもいるわけではなく、カエルツボカビ症によってカエルが壊滅的な被害を受けた地域の中には、ザリガニがまったく生息していないところもあるとブリーデンバーグ氏は指摘する。それでも今回の研究は「ほかの宿主の可能性について、もう少し広く調べてみる必要がある」ことを示すものだとブリーデンバーグ氏は言う。
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