2018年11月11日 日経流通新聞

中国つかむ、ザリガニ料理――「小さなロブスター」、17年、前年比8割増の4兆円産業(アジアFocus)


ザリガニは若い女性を中心に人気を集める(北京市内のレストラン)

若者の酒のつまみに ロシアW杯で定着 ネット出前人気
 【北京=多部田俊輔】中国でザリガニ消費が拡大している。2017年の国内市場は5年前の2倍の110万トンに成長し、産業規模は前年比8割増の2685億元(約4兆4000億円)に達した。辛い味付けでビールのつまみなどとして主に20~30代の人気を得ており、中国で普及したインターネットを使った出前サービスも消費全体の2割を占めるなど国内市場を押し上げる。
 「トウガラシの辛さとニンニクの風味がビールとあう」。週末には毎晩100人以上が行列を作る北京のザリガニ料理の人気店「胡大飯館」。化粧品会社に勤める肖稀さん(22)は月末の夜になると、友達とザリガニ料理で舌鼓を打ってストレスを発散する。
 油でいためてトウガラシの辛さを効かせた味付けや刻んだニンニクをたっぷり入れたガーリック味が人気を集める。使い捨てのビニール手袋を使って真っ赤に調理されたザリガニの殻をむいて、そのまま口にほおばる。
 ザリガニは中国語で「小竜蝦」。ロブスターが「竜蝦」であるため「小さなロブスター」というイメージだ。値段は1匹6元(約100円)からで財布にも優しい。世界的なピザチェーン大手「ピザハット」も中国の店舗ではザリガニを使ったメニューを採用しているほどだ。
 今夏のサッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会では、ザリガニ料理を食べながらビールを飲んでサッカーの試合をテレビ観戦するスタイルが定着し、ザリガニ料理の人気が向上した。さらに、W杯の試合観戦でロシアに向かった中国人観光客を獲得するために、ロシアの飲食店が中国から10万匹を輸入。現地でもザリガニブームが起きたという。
 中国の農業農村省がまとめたザリガニ産業の報告書によると、中国の産業規模は2685億元。養殖を中心とする1次産業分野は485億元で、主に湖北省、安徽省、江蘇省などで生産される。養殖池で手掛けるほか、冬季の水田を利用するケースも多い。
雇用者520万人
 加工などの2次産業分野は200億元で、ザリガニの生産や加工に関わる企業は5000社に達する。ザリガニ料理を提供するレストランは約10万店とされ、外食やネット出前サービスなどの3次産業分野は2000億元。すべての雇用人数は520万人に及ぶとされる。
日本人が起源?
 実は、中国にザリガニを持ち込んだのは日本人とされる。中国メディアによると、1920年代に観賞用や食用カエルの餌として日本から持ち込み、湖北省などで繁殖が進んだ。80年代から90年代にかけて湖北省や安徽省、江蘇省の農村部などで食べられるようになったという。
 数年前から北京や上海などの大都市でザリガニ料理の人気が上昇した背景にはネットの影響がある。グルメサイトで情報が急速に拡散され、流行に敏感で激辛料理を好む80年代、90年代生まれの若者が飛びついた。
 最近のブームをけん引するのはネット出前サービスだ。W杯ではアリババ集団系の餓了麼(ウーラマ)は1試合で300万匹を配送し、騰訊控股(テンセント)系の美団点評はW杯期間中に合計で6450万匹を売り上げたという。
 中国の市場調査会社「易観」によるとネット出前サービス市場は17年で2078億元に達する。20年には3倍近くの5980億元まで成長する見込みで、ポスト「ザリガニ」を探す取り組みも始まっている。