覆面座談会 第1弾!

おことわり
本コーナーは、実際に行われた議論を再現したものですが、ざりがに.COM運営者の意見を反映するものではありません。

日時:2005年12月22日
場所:東京 新宿区内某中華料理店
参加者:A氏、B氏、C氏、D氏(各氏とも匿名希望)


A氏「やられましたね。Cherax属全種というのは、痛かったですよ。一網打尽とはこのことでしょう。これで、ヤビー、マロン、レッドクロウ、クーナック、ゼブラ等々オーストラリア系Cherax属のザリガニは全て飼えなくなりました。オーストラリア系ザリガニ愛好家の裾野が広がりつつあった時期だけに誠に残念です。」

B氏「いきなりCherax属全種禁止というのは、ちょっと乱暴だったのではないですか? 環境省は、Cherax属を特定外来生物に選定した理由として『攻撃的で大型になる種が多いザリガニ類で、温暖な亜熱帯地域から冷水域まで幅広い地域に定着する可能性が高く、これらの地域の生態系を大きく撹乱するおそれがある。』としています。ヤビーはこの理由に当てはまるかもしれないので、禁止されるのは仕方ないとしても、清冷な水域のみに棲息するマロンのように、飼育が難しく日本での累代飼育の実績が殆どない種類まで禁止する必要があったのでしょうか? 温かい地域に棲息するレッドクロウも日本の冬を越せるのか疑問を感じます。ヤビー以外は、いきなり特定外来生物に指定するのではなく、いわゆる証拠不十分扱いの「未判定外来生物」に留めておいて、暫くの間よく実態を調査してその後に指定するか否か決めて欲しかったですね。そうすれば少なくとも今回飼育が禁止されることはなかったわけですから。Cherax44種にも色々な性質のザリガニが存在するのですから、きめ細かく分類して判定すべきだったと思います。」

C氏「近年、ザリガニはもちろんのこと、クワガタやカブトムシその他の色々な珍しい生物を飼うことができるようになり、日本もいい国になったなあと感じていました。私たちが子供の頃は図鑑でしか見ることのできなかった生物を、今の子供たちはペットとして飼うことができるのですから。以前は我が国は規制にがんじがらめにされてペットの輸入が自由にできなかったのに、規制緩和が進み結構いい国になったじゃないかと・・・。だから、規制改革を推進する小泉さんにはエールを送ってきたのですが・・。外来生物法をめぐる動きは、規制緩和に逆行する政策ではないですか? 小池環境大臣も個人的には好きだったんですが、ここでちょっとミソを付けてしまいましたね。」

D氏「特定外来生物の指定は、外来生物法という法律の中でなされているのではなく、外来生物法施行令という政令の別表の中で行われています。従って、特定外来生物の指定は、我々国民により選ばれた国会議員の審議で決められるのではなく、実質的には環境官僚が決めていると言ってもよいと思います。一応、学識経験者の意見を聞き、閣議という手続きは踏まれるわけですが、環境官僚の作った原案がそのまま通るのが殆どです。その環境官僚にザリガニに関する見識があれば良いのですが、環境官僚が作成し特定外来生物等分類群専門家グループ会合(無脊椎動物)で配布した資料などを見る限り、ザリガニに見識のある人が作ったものとは思えません。Cherax属全種禁止という結論が先にありきで、これをサポートできるフレーズを入手しやすい論文からつまみ食いして並べたのではないかと私は疑ってしまいました。」

C氏「特定外来生物等分類群専門家グループ会合(無脊椎動物)を設置し、学識経験者にちゃんと諮問しながらやっていますよと環境省は言うでしょうが、委員の先生はたったの4人で、そのうち3人はそれぞれ蜘蛛、貝類、ベントス(底生生物)の専門家で、残りの一人の座長だけが無脊椎動物全般ということです。無脊椎動物というのは実に幅が広く、蜘蛛、サソリのほか、イカ、タコ、エビ、カニ、貝類、クラゲ、ウニ、ヒトデ、サンゴ、イソギンチャク、ゴカイ、ホヤ、ナマコや動物性プランクトンも無脊椎動物です。それだけ多様性に富み、種類も多い。ザリガニにこれほどの厳しい規制をかけるのであれば、ザリガニのスペシャリストの一人でも委員として入れて欲しかったですね。」

B氏「結局、環境省野生生物課の一担当者が幅広い範囲の生物を担当しなければならないわけで、その人がザリガニのことを詳しく知ってやっているわけがありません。ところで、環境官僚は、肩に力が入りすぎているのではないですか? 01年の中央省庁改革で庁から省に昇格したので張り切っているのは解りますが、「所詮は○流官庁」と言ったら言いすぎでしょうか? 「能力が無いが、やる気がある」は「能力が無くて、やる気もない」よりタチが悪いというのは、どの業界でも常識ですよね。生態系の保護の重要性は万人の認めることで、この点は頑張って欲しいと思いますが、他方でペットを飼育するという国民の自由を制限することでもありますから、慎重に節度を持ってやって欲しいと思います。」

D氏「『生態系の保護』を錦の御旗に掲げられてしまえば、誰も文句のつけようがありません。文句を言ったら袋叩きに遭いますからね・・・。でも、「規制を行うには十分な根拠が必要であり、外来生物による我が国の生態系に係る被害を防止するために必要な範囲内でのみ規制がなされるべきである。」とは、環境省自身が言っていることなんですがねえ・・。」

C氏「役人の世界では、法律を作って規制を強化すれば大きな業績として評価されるんですよ。あまり権益のなかった環境省も外来生物法のおかげで許認可権という大きな権益を持つことができるようになったわけで、これを成し遂げた官僚は、今後出世すること間違いありません。この法律は、天下り先の拡張にきっと役立つことでしょう。」

B氏「そういえば、特定外来生物法には、生態系の保護のほか、農林水産業の保護という目的もあるので、環境官僚だけでなく一部農水官僚も関与しています。農水省といえば来年度入省キャリアに東大法学部卒が一人もいないと報道されたように凋落激しい○流官庁ですよね。農林水産業者の代弁者と揶揄される農水官僚のことですから、掘り能力が高く水田の畦に穴を開け稲作農家に被害を与える恐れのあるヤビーを特に「目の仇」にして、主管の環境省に横槍を入れたのかもしれませんね。それで他のCherax属全種が巻き添えを食ってしまったのかなと勘ぐってしまいました。これ以上言うと、本当にお役人様を怒らせてしまい、後が怖いので、もう止めておきますが・・・。」


A氏「私は、Cherax属がオーストラリア産であるから一網打尽にやられたのではないかと考えています。これがオーストラリアでなくアメリカであったら、こんなことにはならなかったのではないかと・・・。先程も出てきた環境省の資料を見ますと、「オーストラリアでは生きたザリガニの輸入は禁止されている」という記述が何度も何度も出てきます。オーストラリアはザリガニの輸入を禁止しているのだから、日本がオーストラリア産ザリガニの輸入を禁止しても相互主義の観点からオーストラリアに文句を言われる心配はないよと訴えているように思えます。だから、Cherax属全種を一気に禁止にしてしまえと・・・。アメリカ大陸には350種類のザリガニがいるのに、特定外来生物に指定されたのはウチダザリガニとラスティークレイフィッシュの2種類だけです。やはりアメリカが怖かったのではないですか? ウチダザリガニとラスティークレイフィッシュを指定する理由として、ザリガニカビ病を蔓延させるおそれがあるということが書いてありましたが、それはこれらのザリガニに限ったことではなくアメリカ産ザリガニ全体に言えることなのですから、それならばアメリカ産ザリガニ全種を禁止すればいいじゃないかと思いましたよ。2種類だけの指定は不自然ですね。」

C氏「オーストラリアがザリガニの輸入を禁止するのは当然です。あそこはカンガルーのような有袋類をはじめとして他大陸では見られないユニークな生物がいるので、そのユニークな生物たちを守る価値があります。Cherax属はその生殖器を見ればわかるように他大陸のザリガニには見られない、ザリガニの世界ではかなりユニークな存在です。また、マロンやレッドクロウのように食用に適し輸出産業として有望なザリガニ種を外来の病気から守りたいという産業政策上の理由もあります。日本とはザリガニの輸入禁止政策に対する重みはずいぶんと異なるのではないですか?オーストラリアがやっているから日本もやるというのは少しおかしいですよ。」

B氏「全種が指定されてしまったAstacus属とCherax属は、それぞれヨーロッパとオーストラリアが原産で、不思議とアメリカ原産は「全種指定」から外されています。アメリカではルイジアナ州をはじめとして食用にザリガニを養殖して世界に輸出していますから、日本が輸入禁止措置をとればアメリカから文句を言われることを恐れたのでしょうか? 牛肉問題で懲りているので、二の足を踏んだということは有りえるかもしれませんね。日米関係に変なミソを付けて、ブッシュ・小泉蜜月関係を演出している官邸から睨まれるのを、官僚は何よりも恐れたということかもしれません。案外。」

C氏「私は、アメリカザリガニが特定外来生物に指定されず、Cherax属というマイナーな存在が指定されたことが腑に落ちません。生態系の破壊という観点から言えばアメリカザリガニはA級戦犯でしょう。しかし、この最大の悪玉が「要注意」とされただけで特定外来生物に指定されませんでした。1930年に導入されたアメリカザリガニが短期間で日本全国を席捲してしまったので、「ザリガニ」イコール「悪玉」というイメージができあがっているところで、真の悪玉であるA級戦犯ではなくBC級の小物がやられてしまった。世の中いつも弱いマイノリティーがいじめられるのですよね。」

D氏「法の実効性を心配したのかもしれませんが、魚の世界の悪玉で既に広く棲息しているブラックバスなどはちゃんと1次で特定外来生物に指定されているのだから、広く棲息しているアメリカザリガニだって指定は可能なのだと思いますよ。Cherax属などを指定するならば、それより前にアメリカザリガニをまず指定するのが筋の通ったやり方だと思います。今回それをやらずにいきなりCherax属全種を指定してしまった。筋が通っていません。案外、環境官僚ドノも、「子供のころやったアメリカザリガニ釣りは楽しかったなあ。ぜひ、自分の子供にもやらせてやりたいなあ。」というノスタルジックな感情から指定から除外したのかもしれませんね。アメリカザリガニと並んで子供のアイドルとなっているミドリガメについても同じことが言えます。しかし、行政に変なノスタルジーは禁物です。」

A氏「そう言えば、1次指定でブラックバスが指定された後、フィッシング・ファンの間で少なからず混乱が生じましたね。結局、環境省が法解釈の公式見解を示しました。「釣ったブラックバスを水の入ったクーラーボックスに入れ置くと処罰の対象になるが、水の入っていないクーラーボックスなら処罰の対象にならない」とか「釣り大会で計量後、大会主催者がリリースすると処罰の対象となるが、計量後釣り人本人にリリースさせれば処罰の対象にならない」更には「釣ったブラックバスを池端の道まで運ぶと処罰の対象となるが、道の手前なら処罰の対象にならない」といった環境省の(珍?)解釈を聞いてゲラゲラ笑ってしまいましたよ。それで、環境省のお役人様もアメリカザリガニはやっぱりやめておこうとなったのかもしれませんよ、恥ずかしいですから。」

A氏「私の知人は、長年カミツキガメを可愛がっていたのですが、056月の外来生物法施行と同時にカミツキガメが特定外来生物に指定されてしまいました。そこで知人は飼育許可申請を出そうと思ったのですが、許可を得るにはカミツキガメに識別のためのチップを埋め込まなければなりません。そこで、やってくれる獣医を探して、都内の獣医何十件もに電話をかけましたが、全て「カメへのチップ埋め込みは、やったことがないのでできません。」と断られてしまいました。困り果てた知人は、環境省野生生物課に電話で泣きつきましたが、「ウチでは獣医の紹介はやっていません。」と冷たくあしらわれてしまいました。仕方なく知人は長年可愛がってきたカメツキガメを泣く泣く殺処分することとしました。日本刀や居合いが趣味なので、カメに対するせめてもの礼儀ということで、溢れる涙を堪えながら、日本刀でバッサリとカメツキガメの首を刎ねたということです。この例からも、環境官僚は拙速に法を作っても、ちゃんとフォローする気があるとは思えません。いい加減なものです。」


D氏「今回ウチダザリガニも特定外来生物に指定されましたが、それで公平を確保できるのか、私は憂慮しています。ウチダザリガニは、北海道の2つの水域で漁業権が設定されており、毎年数百キロから数トンの漁獲量があり、食用に供されています。すなわち、その地の漁師さんたちはウチダザリガニを「生業の維持」の糧としているので、漁業権が有効な限り、飼養、保管、運搬、販売等が環境大臣によって許可されることとなるでしょう。特定外来生物は必要に応じ国が防除を行うということになっていますが、この水域では防除されないのはいうまでもなく、地元漁協により漁獲高向上のため保護育成さえがなされると思います。このように飼養等が認められお金儲けまでさせてもらえる人々がいる一方で、アマチュア愛好家は飼養等しただけで懲役1年から3年以下の懲役です。一体この格差は何ですか? 公平という観点から本当に問題がないのでしょうか? 本当に筋が通りません。そんなことなら、ウチダザリガニを指定するべきではなかったのではないかと思います。」

A氏「こう議論してみると、どうもザリガニに関しての特定外来生物2次選定は、論理的に一貫性がないというか、筋が通っていない面があり、いろいろ反対意見が出るような気がしますが、政令改正のための閣議決定前に、ザリガニ屋さんやザリガニ愛好家たちはロビーをやらなかったのでしょうか? アマチュア・ザリガニ愛好家の団体として某クラブ等がありますが・・・」

B氏「我々は団体に属していませんので分かりませんが、環境省が発表しているパブリック・コメントの結果というのを見てみると、一般の人からはいくつか反対意見が出されています。しかし、環境省側の回答は全く「暖簾に腕押し」ですね。環境省は最初から案を変えるつもりなんか無く、ただ単に国民から意見をちゃんと聞いていますよという実績を作りたいだけなんじゃあないですか? 近々施行される行政手続法改正でパブリック・コメント制度が正式導入されますが、これじゃああまり期待できませんねえ・・・。あまり言い過ぎると怒られるのでこの辺にしておきますが・・・。いずれにせよ、特定外来生物の指定は3次、4次と続くわけですから、我々の大好きなフロリダブルーのように今回の指定から逃れたザリガニも今後指定されないとは限りません。今後とも注意して見守る必要がありそうですね。この際アマチュア・ザリガニ愛好家が一致団結できればいいのですが・・・」

C氏「「我々の好きなフロリダブルー」なんて言っちゃいけませんよ。我々の議論を聞きつけて怒ったお役人様に狙い撃ちされますよ。」

A氏「ところで、未判定外来生物に全てのザリガニが指定される見通しですが、まだ巷のザリガニ愛好家は、このインパクトの深刻さについて気が付いていないのでしょうか? 特定外来生物の指定だけに今は目が行っているのかもしれません。しかし、全種のザリガニが未判定外来生物に指定されることで、おそらくペット用ザリガニの輸入は完全にストップし、ペット屋は国内ブリードものだけでヤリクリせざるをえない状況になるでしょうね。」

D氏「未判定外来生物の指定は、政令より一段グレードの低い省令の別表で行われるので、更に環境官僚のフリーハンドが増すわけで、まさに「お役人様! ご勘弁を!」の世界ですよ。「ニホンザリガニ、アメリカザリガニ及び特定外来生物に指定されたザリガニ以外の全てのザリガニ」ということは、これで全ザリガニが網にかかったということでしょう。環境省も容赦ありませんねえ。」

C氏「未判定外来生物を輸入しようとする者は、あらかじめ環境大臣にお伺いをたて、環境大臣が、生態系に被害を及ぼすおそれがあるものではないと判定したものでないと輸入できません。環境省の運用のしかたにもよりますが、一般的には、少しでもおそれがあればダメなわけで、きっと全てのペット用ザリガニが輸入できなくなるでしょう。判定の結果が出るまでに、最高6ヶ月も待たされるということもあり、どの輸入業者も二の足を踏んで、お伺いさえ立てないのではないですか?」

B氏「我々が、例えばフロリダ・ブルーの国内ブリードに励んだとして、あまり大々的にやって目立ちすぎるとお役人様の目に留まって、次の特定外来生物に指定され、飼養等さえも禁止されてしまうでしょうよ。まるで春画をやっていた江戸時代の浮世絵師のようなものですよ、我々アマチュア・ザリガニ愛好家っていうのは。度を過ぎれば、幕府に弾圧される・・・。」

A氏「まあまあ、今日はこの辺にしておきましょう。環境官僚が作成し特定外来生物等分類群専門家グループ会合(無脊椎動物)で配布した資料の内容は、まずCherax属等のザリガニを特定外来生物に指定するという結論が先にありきで、恣意的な内容であるとの指摘が先程ありましたが、新年会では、その内容を詳しく議論してみますか。また、今日はあまり議論する時間のなかった未判定外来生物についてもですね。皆さん、今日はどうも有難うございました。」