覆面座談会 第2弾!

おことわり
本コーナーは、実際に行われた議論を再現したものですが、ざりがに.COM運営者の意見を反映するものではありません。

日時:2006年1月25日
場所:東京 新宿区内某イタリアンレストラン
参加者:A氏、B氏、C氏、D氏(各氏とも匿名希望)


A氏「未判定外来生物。今日の官報に出ましたね。くしくもこの座談会開催日と同じ日に決定されてしまいました。ザリガニはほぼ壊滅といった感じになりましたが、環境省も惨いことをするものです。アメリカザリガニとニホンザリガニを除いたザリガニ全種に規制の網をかけるなんて・・・! しかも今日(06年1月25日)の改正・公布ですから、施行日の2月1日までたったの1週間しか周知徹底期間がないじゃあないですか! あまりにもやり方が乱暴すぎますよ! 」

B氏「そのとおり! 未判定外来生物の指定なんて法律事項でもなければ、政令事項でもない。単なる省令事項ですよ。我々の代表である議員が決めるわけでもなければ、閣議で決めるわけでもない。結局環境省のお役人が決めるわけです。環境省の専決代決訓令というものを見たことはありませんが、高々局長決裁ぐらいで決められるのではないですか?  政令に合わせて2月1日に施行するのなら、さっさと決裁取って早く国民に示してほしかったですね。リードタイムが1週間なんてバカにしていますよ。」

C氏「未判定外来生物は、輸入に規制がかけられるだけだろうと、巷ではタカをくくっている人が多いようですが、ボディーブローのように効いてくるのですよね、本当は・・・。輸入の届出を出させておいて、審査の結果殆どダメとなるものと思われますが、ダメの場合、次で「特定外来生物」に指定して、飼養等までも禁止しちゃおうっていうのですから、あんまりです。」

B氏「そりゃあ、法律で「『生態系に被害を及ぼすおそれがあるものではない』と判定されないと輸入できない」としたところで「勝負あった」ですよね。この「おそれ」がクセモノで、「・・おそれがあるものではない」ということほど証明が難しいものはない。理論的に少しでも可能性があればダメなわけで、その可能性を否定するエビデンスというものは中々ないでしょう。結局クロ判定されてしまう。このレトリックは霞ヶ関の常套手段かもしれませんけれどね・・・。」

A氏「某ショップさんが、軽率に届出を出さないといいのですが・・・。それが自殺行為になりますから。」

C氏「私は、ドイツの業者が心配ですね。届出は外国の業者でもできることになっていますから、ザリガニのいわゆる「ドイツ便」を扱っているドイツの養殖業者あたりが届出を出してしまうのではないかと・・・。」

B氏「何も業者でなくても、個人で輸入したいと考えれば届出はできるわけですから、我々ザリガニ愛好家をいじめてやれという悪意をもった輩が仮にいたとして、この人が本心では輸入する気なんかさらさら無いのに、どうせダメ判定が出るだろうと予測して届出を出すようなことがあれば、我々ザリガニ愛好家には取り返しのつかないほどの大打撃になりますよ。テロリストと一緒ですね。届出は、用紙一枚と、ザリガニの生息地情報や資料をインターネットか何かで調べて添付すればいいわけですから、簡単にできてしまいます。甚大なる被害を簡単な手段でできるところにテロリズムのテロリズムたる所以があるわけで・・・。しかも、環境省は誰が届出を出したか公表しないでしょう。個人情報保護法で守られていますから。」

A氏「私が贔屓にしているフロリダブルーの輸入の届出が誰からも出されないことを、ただ祈るばかりですよ。」

B氏「意外と、自然環境局野生生物課の職員が一私人として届出を出したりして・・。悪い冗談ですが。」

C氏「我々は、ゲームの理論でいう「囚人のジレンマ」状態にあるわけですね。誰も届出を出さずにザリガニ飼育を続けていける状態が最大のペイオフであり、誰かが届出を出してクロ判定となり特定外来生物に指定されてしまうのが最低のペイオフであるわけです。プレーヤーは誰かが届出を出してしまうかもしれないという不安感にかられることとなる。ひょっとしたらシロ判定されるかもしれないという微かな期待があれば、そのペイオフは最低の場合よりは高いわけですから、合理的な意思決定を前提とすればイチかバチか届出を出してみようと考える人は少なからず出てくるでしょう。私は、外来生物法のこの「囚人のジレンマ」方式を見たとき、目から鱗でしたよ。はあーん、理系の人たちって、こういう法案を作るんだあ・・・と。」

D氏「私は、トラップ方式に感心しましたよ、非常に合理的です。すなわち、未判定外来生物に「輸入」という餌をぶるさげて待っていれば、「囚人のジレンマ」状況もあいまって、届出を手にして次々と獲物がトラップにかかってくる。順次審査を行いクロとなったものから次々と特定外来生物に指定をしていけばいいのですから、最小の労力で最大の効果をあげられます。これも目から鱗ものですよ。やっぱり理系の発想かもしれません。」

A氏「確かに、始めから環境省なり農水省なりが政令別表で全部の特定外来生物を指定するという方式であると、内閣法制局の参事官あたりから、漏れがあるのではないかとか、指定したもの・しなかったものの峻別の根拠及び全体像を示せとか、お役人はギリギリいじめられますからね。理詰めの法制局参事官から逃れるにはこのトラップ方式は賢いやり方です。環境省の役人も見かけによらず結構頭いいじゃあないですか!」

D氏「こうしてザリガニの規制が進むと、最終的に規制がかからないのがアメリカザリガニとニホンザリガニだけとなりますから、ニホンザリガニを飼育したいと考える人が今以上に増えるでしょう。ニホンザリガニの需要が増加し、捕獲されるニホンザリガニも増加しますから、自然界におけるニホンザリガニの個体の数はどんどん減ると思います。要するに、在来生物の保護のために作った法律が、逆に在来生物の個体数を減らしてしまうのですよ。私は、これを「外来生物法のパラドックス」と呼びたいですね。社会学的には面白い現象です。最終的には、ニホンザリガニを天然記念物に指定しなければならないほど個体数が減るのでしょうね。愚かな話です。」

C氏「ところで、ザリガニを目の敵にしているところを見ると、環境官僚の偉い人の中に、生理的にザリガニを嫌悪している人がいるんじゃないかと疑ってしまいます。案外、子供のときにザリガニのハサミに挟まれて大べそをかき、トラウマとなっているとか・・・。外来生物法は、正式名称が「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」とあるので、一般の人は、ザリガニが生態系に被害を及ぼす場合にのみ規制されると思っていますが、「生態系等」の「等」がクセモノで、この「等」は実は「人の生命又は身体」と「農林水産業」であると法に明記してあります。すなわち、ザリガニが生態系に何ら悪影響を及ぼさなくても、人の身体に被害を及ぼすおそれがある場合には、特定外来生物に指定されえるのですよ。」

B氏「自然環境局の課長級以上の幹部は、大多数が農学部出身者ですが、まさか田植え実習のときにアメリカザリガニに尻でも挟まれたのじゃあないでしょうね?」

D氏「そういえば、環境官僚はザリガニ殲滅のために「世界のザリガニ飼育図鑑」までうまく利用したらしいですね。事実、特定外来生物等分類群専門家グループ会合(無脊椎動物)で配布した資料の中に「世界のザリガニ飼育図鑑」が出てきます。図鑑を委員の先生たちに見せて「こんな魅力的なザリガニ、絶対に流行るに違いない。飼育も奨励しているし、今のうちに手を打っておかないと大変なことになる。」という気持ちにうまく誘導したのでないですか? 図鑑はザリガニ愛好家が出版したわけで、これを最大限利用してザリガニ愛好家の楽しみを奪おうなんて、油断もスキも有りませんよ。でも、ブーメラン効果っていうやつで、出版した方が馬鹿だったのですかね?」

B氏「検察にやられたホリエモンと一緒でね、出る釘は打たれるということですよ。その結果、希望に燃えた起業家全体に負の影響を与えてしまった。ザリガニについても同じで、出る釘が打たれ、ザリガニ愛好家全体に負の影響を与えることとなってしまった・・・。図鑑を出そうと、特製餌を販売しようと、インターネットで飼育情報を発信しようと、別にかまわないと思いますがねえ。国家権力を担うお役人様の捉え方は違うのでしょうか?」

C氏「ホリエモンの件については、検察ファッショと言う人がいますが、ザリガニについては、環境省ファッショですか? いけねえ、いけねえ、また口がすべっちゃった。」

A氏「ホリエモンのところにガサ入れが入り、逮捕されたときは、夜の銀座から人通りが消えたということですよ。銀座のママさんから聞きました。我々も、全ザリガニがやられてしまったこの日に、こんなところでワインなんか飲んでいる場合じゃあないですよ。そろそろお開きといたしましょう。」