マイケル・マッサー(アメリカ・アラバマ州・オーバーン大学水産学部助教授)
デービッド・ルース(同助教授)   共著             
東京ザリガニ研究所(TCRI)    訳              

オーストラリア原産レッドクロウの生産について
                                 1997年5月


   目 次

T はじめに
U 生態と生育環境
V 繁殖と孵化のテクニック
W 孵化
X 池での生産
Y 収穫
Z 病気
[ 法律及び環境に関する制約
\ マーケティング
] ファイナンス

T はじめに

養殖業者は、日頃から新たな養殖対象を探し求めている。オーストラリア原産のザリガニが1ポンドよりも大きくなるということを知って、多くの養殖業者が心を躍らせ、また、「フレッシュウォーター・ロブスター(淡水ロブスター)」という名称が多くのマスコミの注目を浴びた。今日、オーストラリア原産ザリガニは、オーストラリアだけでなく、ニュージーランド、東南アジア、アフリカ、アメリカなどでも養殖されている。
オーストラリアでザリガニ養殖が法律で認められた1975年以前は、アメリカでは、オーストラリア産ザリガニの養殖について殆ど知られていなかった。ひとたびザリガニ養殖が合法化すると、養殖に熱心なオーストラリア人は、養殖の可能性について、数種の野生ザリガニを調査し始め、現在、オーストラリアに棲息する百種以上のザリガニのうち、マロン(Cherax tenuimanus)、ヤビー(Cherax destructor)、レッドクロウ(Cherax quadricrinatus)の三種が養殖されている。この三種には、それぞれオーストラリアにおける棲息地や生態に違いがみられる。(図1参照)


図1   オーストラリア原産ザリガニ養殖種の棲息分布

マロンは、最も大きく成長するザリガニであり、アメリカでも1980年代に大きな関心を呼んだ。しかし、オーバーン大学での研究によれば、マロンは適応可能な環境の範囲が非常に狭く、生存可能な水温は、華氏55〜85度(摂氏13〜29度)、成長可能な水温は華氏60〜70度(摂氏16〜21度)である。自然界では、オーストラリア南西部の冷涼な沢や川に棲息している。
アラバマの夏の水温は、華氏85度(摂氏29度)以上が2ヶ月以上も続き、短い期間であるが華氏90度(摂氏32度)にもなる。また、マロンは低めの溶存酸素量(7ppm以下)にも耐えられないため、夏のアラバマでは必要な溶存酸素量を維持することができない。マロンが生存するには、低レベルの塩分(100〜300ppm)、低めのアルカリ度及び硬度(50〜100ppm)が必要である。更に問題なのは、繁殖可能な成体になるまでに2〜3年かかるほか、人工飼育が難しいという点である。人工飼育下において、幼体の生存率は50パーセント以下である。マロンは成長が遅く、0.5〜1ポンド(230〜450グラム)になるのに2年かかる(但し、まれに4〜5ポンド(1800〜2300グラム)となるものが報告されている)。以上の要素を勘案すると、マロンのポテンシャルは限定的なものと言えるであろう。
ヤビーは、オーストラリアの南東部に棲息している。ヤビーの研究はアメリカではあまりなされていないが、オーストラリアでは、ヤビーがとても幅広い環境に耐えられることが知られている。ヤビーに関して問題なのは、その「掘りグセ」である。ザリガニにとって掘る能力は、特に乾期を生き抜くために必要な重要な能力であるが、養殖池においては問題を引き起こす。養殖池に巣穴を開け、水漏れを引き起こすからである。このように、ヤビーに「掘りグセ」があることや、さほど大きくはならないことなどから、アメリカの養殖の世界ではあまり注目を浴びていない。
他方、レッドクロウは、オーストラリアの北部に棲息しており、アラバマにおいて最も可能性を秘めた種といえるであろう。レッドクロウの養殖が始められたのは1985年からであり、1989年からアラバマで始められた研究では、以下のような好ましい結果が出ている。

本レポートでは、レッドクロウの生態、生育環境、繁殖、飼育、病気などに関し、オーストラリア及びアメリカでの経験をもとに記述するとともに、レッドクロウのマーケットの可能性についても簡単に触れる。


U 生態と生育環境

レッドクロウは、形態や生態に関し、アメリカ原産のザリガニと基本的には似ているが、以下のようないくつかの重要な相違点がある。

レッドクロウは成長シーズンには7ヶ月で2〜4オンス(60〜110グラム)ほど成長するが、アメリカ原産ザリガニは1〜1.5オンス(30〜40グラム)しか成長しない。更に、レッドクロウは体重の30パーセントを尾の肉として収穫できるのに対し、アメリカ原産種は体重の15パーセントしか収穫できない。
レッドクロウ、アメリカ原産種ともに1年未満で性成熟するが、アメリカ原産種は、春と秋の日照時間及び温度変化により生殖活動が促がされるため、春・秋の繁殖シーズンにしか産卵をしない。レッドクロウは水温が華氏75度以上であれば、いつでも産卵を行うため、条件さえ整えば年間を通じ継続的に繁殖させることができる。
レッドクロウはアメリカ原産種と異なり、深い巣穴を掘ることはない。レッドクロウも浅い巣穴を掘ることはあるが、掘ったとしても池の底床であり、側壁に穴を空けるようなことは通常ない。
レッドクロウとアメリカ原産種との他の大きな違いは、適応水温である。アメリカ原産種は、温暖な気候の下に棲息している。一般的に広い水温域に耐えられるが、活動が活発で成長もするのは涼しい季節であり、夏の暑い期間は地下に巣穴を掘り、その中で過ごす。
レッドクロウの自然界における棲息地域は、オーストラリア北部の熱帯域である。従って、レッドクロウは比較的高い水温(華氏75〜85度(摂氏24〜29度)で一番良く成長し、低温には耐えることができず、華氏70度(摂氏21度)以下では成長率が劇的に低減する。水温華氏50度(摂氏10度)以下では死に至り、アラバマにおける5〜7ヶ月間の成長シーズンにおける生産高が低減することとなる。このため、寒冷期における繁殖と幼体飼育は、室内で行う必要がある。
レッドクロウ、アメリカ原産ザリガニともに雑食性で腐敗物を食べる。すなわち、腐敗した植物性又は動物性の食物を好んで食べる。自然界の棲息地では、多くの場合、腐敗した植物性食物を食べているが、養殖環境の下では人工飼料も含め受けつける食物はバラエティーに富んでいる。
レッドクロウは、アメリカ原産種と同様、幅広い水質に適応し、酸素については1ppm以上、硬度及びアルカリ度は20〜300ppm、pHは6.5〜9の間で棲息できる。レッドクロウの成体は1ppmまでの溶存酸素量に耐えられるが、幼体は成体に比べ低酸素に弱い。レッドクロウは、短時間であれば、1ppmまでのアンモニア及び0.5ppmまでの亜硝酸に耐えられ、特に悪影響は出ない。
養殖という観点から見て重要なのは、レッドクロウは、大型種にしては珍しく比較的高密度の飼育環境に耐えられるという特性があることである。1平方ヤード当たり50匹以上という密度においても、成体が共食いすることは少ない。オーストラリアの熱帯地方では雨期と乾期があり、乾期には限られた池に集中して棲息しなければならないという環境下にあるため、このような特性が備わったものと思われる。このような環境の下では、攻撃的でないという特性は生存・繁殖していく上で重要なものである。雨期が到来すれば、レッドクロウは新たにできた水場に拡散する。ただし、幼体は成体よりも攻撃的で、共食いもある程度は見られる。



V 繁殖と孵化のテクニック

レッドクロウは、一般的に6〜12ヶ月で1〜3オンス(30〜85グラム)に成長し、性成熟する。成熟したオスのハサミの外側には赤又はオレンジ色のパッチが現れる。この大きさで、赤いパッチのないものはメスである。しかしながら、性の判別は胸脚の付け根部分にある性器で判別するのがベストである。メスは第3胸脚(ハサミを含め、頭の先から数え3番目)の付け根に性器(産卵口)を有し(図2参照)、オスは第5胸脚の付け根に小さな突起状の性器を有する。

 図2   レッドクロウ雌雄概観図

メスは、脱皮をするときには産卵しない。1匹のメスは、その個体の体長や体調により異なるが、100〜1000個の卵を産む。通常、初めて産卵するメスよりも回を重ねたメスの方が多くの卵を産む。平均して体重1グラム当たり6.2個の卵が観察される。例えば、3オンス(85グラム)のメスは約500個の卵を産む。図3のとおり、サイズに応じてメスの産卵個数が予想できる。  

図3  レッドクロウ メスの体重と卵数の相関関係


自然の池では、成熟したレッドクロウがいれば、華氏70度(摂氏21度)以上で繁殖行動は起こる。多くのオーストラリアの業者は、池に成体とともに混在している幼体を収集する。オニオンバッグや網戸用の網などメッシュ状のものをフロートに繋ぎ水面から水底にかけて垂らしておくと、幼体はこれをシェルターとするので、この仕掛けを時々チェックし、メッシュに掛かった幼体を気を付けて取る。しかし、この方法では高い生存率を得られない(5〜10パーセント)。幼体の間での餌の取り合いや共食いにより成長や生存は限定される。
アメリカ南部では、レッドクロウの屋外飼育は温暖な5〜7ヶ月に限定されてしまうため、屋外での産卵は適当でない。最も効率的で経済的な方法は、屋内の孵化水槽で冬に産卵させるとともに幼体を育成することである。成熟した成体を秋の終わりに孵化水槽に移し、冬に産卵させる。この卵から誕生した幼体を屋内で人工飼料を使用して育て、春に成体用の池に移す。1エーカー(4000平方メートル)の成体用池には、1万〜1万2千匹の幼体を投入するが、(産卵率及び生存率を勘案すれば)約70匹のメスの成体と約25匹のオスの成体を使うことが適当である。

屋内での孵化を成功させるためには以下のことが重要である。

種親は大きさ、元気度、一般的な健康状態に基づき選定する。大きくて健康な個体を選ぶことが重要である。種親を孵化水槽に入れる前に病原菌を取り除くために塩水やホルマリンでトリートメントするのが良い。このトリートメントに関する特別な研究はなされてはいないが、魚に対して行われているトリートメント(例えば1000〜2000ppmの塩水又は15〜25ppmのホルマリン)を試すことをお勧めする。このトリートメントはレッドクロウ自身に害を与えず、病原菌の問題をクリアーする。現在のところレッドクロウのための病気治療薬は認められていない。
加温の上、物理及び生物濾過装置を使用し、水槽内の水質は良好に保たれなければならない。水温は華氏75〜85度(摂氏24〜29度)に保つ。孵化水槽の水温を華氏80度(摂氏27度)以上にし、長めの光照射時間(12〜14時間)をとれば、産卵率が向上する。
光の強さは作業に支障が出ない範囲でできるだけ低くする。暗い色の水槽にカバーを掛ければ、強い光や水槽周りの動きにより個体にかかるストレスを減じることができる。更に、ファイバーグラスやステンレスなどの表面が滑らかな水槽を使用すれば、ザリガニが傷つくのを最小限に食い止められる。ザリガニの甲殻の傷は病気の原因となる。
種親は水槽の床面積1平方フィート(30センチメートル四方)当たり1〜2匹とし、サイズも揃えるのが良い。水槽内のオスとメスの割合は、オス1匹に対しメス2〜3匹が適当であるが、オス1匹に対しメス6匹まで良い結果をもたらす。良い産卵結果を得るには、水の深さは1〜3フィート(30〜90センチメートル)が良く、15〜20平方フィート(1.4〜1.9平方メートル)の長方形か直径15フィート(460センチメートル)の円形の水槽が成功する。12〜18インチ(30〜46センチメートル)の浅い水深で長さ8〜10フィート(240〜300センチメートル)の長方形の水槽であれば作業がしやすい。例えば、20平方フィート(2フィート×10フィート×1.5フィート)(60センチメートル×300センチメートル×45センチメートル)の水槽にはオス5〜10匹、メス15〜30匹が入る。
レッドクロウは登るのが上手いので、水位が水槽の上面に近かったり、エアチューブやヒーターのコードが水槽の縁から出ていたりすると、逃亡することがある。従って、エアレーションやヒーター関係の装置は真上から吊るすと逃亡を防げる。

図4 レッドクロウの活動レベル時系列


研究によれば、レッドクロウは、午後6時から12時にかけてが一番活動的である。(図4参照) 個体はこの時間に盛んに食物をあさるので、この時間に餌を与えるのがベストである。
種親に与える栄養は非常に重要である。種親にはビタミンやミネラルを補った完璧な餌を与えるべきである。32パーセント以上のたんぱく質を含むザリガニ又はエビ専用の餌を、1日当たり体重の3パーセント与えることを推奨する。ある業者は、生の素材をもとに作った餌を与えている。この餌には、冷凍のミックスベジタブル、種、牛の心臓やレバーなどが使われている。ただし、餌のやりすぎに注意する必要があり、特に生の餌をやるときには水質を悪化させる恐れがあるので注意する。
交尾により、オスは、メスの下側第3と第5胸脚の間に精胞(精子の詰まったサック)を付着させる。精胞は、色は白で直径約0.3インチ(8ミリメートル)のものである。メスは24時間以内に第3胸脚の下の産卵口から産卵をし、その際、精胞の精子を使って受精させる。

図5 レッドクロウのメスは腹肢に卵を付着させる。写真上は、産卵したての薄い色の卵。写真下は、濃い色の成熟した卵で、孵化が近い。

レッドクロウのメスは、他のザリガニ同様、腹部下の腹肢に卵を付着させる。卵は、抱卵期間中付着したままとなり、その期間の長さは、水温にもよるが4〜6週間続く。卵は楕円形で直径約0.1インチ(2.5ミリメートル)である。
抱卵したメスは「berried」と呼ばれる。抱卵したメスは、産卵後10〜14日間腹部を丸めたままでいるので、すぐにわかる。また、その間活動が鈍る。抱卵したメスは産卵水槽に移せば、孵化後、幼体を種親水槽から移す手間が省ける。種親水槽は3〜4週間ごとに抱卵したメスがいないかチェックする。抱卵したメスは、落卵を防止するため、網でそっと捕らえて移す。移すときには、メスの腹部は丸めたままとなるようにし、腹部の急激な動きにより落卵しないよう気をつける。


W 孵化

レッドクロウの卵は、その発達に伴いいくつかの段階に分けられる。(図5参照)各期の長さは、水温等により変わるが、各期は、卵の色や卵内の幼体の成長度で峻別される。以下は、水温華氏約85度(摂氏約30度)の下での卵の状況である。

○ 第1期  薄いクリーム色(第1〜3日)
○ 第2期  濃い茶色(第12〜14日)
○ 第3期  目の出現(第20〜23日)
○ 第4期  孵化。色はオレンジ(第28〜35日)
○ 第5期  一人歩き(第35〜40日)

華氏85度(摂氏29度)では孵化は30日以内に起こるが、華氏75度では45日となる。孵化水槽内のメスは、卵の発達度が同じものでグルーピングするのが良いが、初期の段階ではできるだけ邪魔をしないようにする。幼体は孵化後約1週間はメスの腹肢にしがみついているが、1週間以上たつと母親から独立する。この孵化後の時期は幼体の生存にとって非常に重要な時期である。このため、メスは幼体が母親の腹肢にしがみつかなくなってから、孵化水槽から取り出す。孵化水槽が小さく、高密度の状態であると、母親が幼体を捕食することが観察されているので、注意を要する。
幼体の生存率を高める上で重要なのは、飼育密度、幼体のサイズの統一、遮光、栄養及び水質である。レッドクロウの飼育密度は、最初の4週間の段階では1平方フィート当たり50匹(1平方メートル当たり550匹)を超えてはいけない。幼体の数は、メスのサイズで見当がつく。(図3参照) 多くの生産者はこの段階では、深さ6〜12インチ(15〜30センチメートル)の浅い水槽を選ぶ。最初の数週間は、幼体は簡単に傷つくので触れないほうが良い。
研究によれば、幼体育成水槽で適切な配合飼料を与えることは、その後の成長や生存率を向上させる。幼体は2インチ(5センチメートル)以上1グラム以上になってから池に移し替えれば、高い生存率を示す。屋内の孵化水槽では、幼体の質・量を向上させるべきであり、大きい幼体は分離する。
先に生まれた大きい幼体は、後から生まれた小さい幼体を捕食するため、抱卵の段階で卵の発達度に応じて母親をグルーピングするのが良い。レッドクロウの幼体の成長スピードは、個体により異なる。生後4週間で、水槽内の最も大きな幼体は最も小さい幼体の5倍以の大きさとなる。幼体全体の生存率は、グレード分けをし、大きい幼体を分離することにより、上げることができる。共食いは、適当な隠れ場所・シェルターを設けることによっても低減できる。広い居住面積、適当な水流、餌を食べる際の水底へのアクセス等を備えることにより、生存率を改善することができる。ファイバーグラスでできた網戸用の網、メッシュの袋などが利用されている。幼体の生育法については現在研究が進められている。
栄養も幼体の育成という点から重要である。孵化したばかりのレッドクロウは非常に狭いテリトリー(数平方インチ)をもつにすぎない。このため、餌は水槽全体に行き渡るようし、幼体が水底からもメッシュからも餌にありつけるようにする。いくつかの飼料が孵化水槽の幼体用に使われている。今のところ、一番のお薦めは、高たんぱく(44〜46パーセント)の魚又はエビの幼体用飼料である。幼体には1日に3〜4回餌を与える。ブラインシュリンプを与えると生存率や成長率が改善する。孵化したばかりのブラインシュリンプがベストであるが、冷凍ブラインシュリンプでも良い。ブラインシュリンプは毎日与えるべき配合飼料の代替となる。
ザリガニの幼体が全てを食べつくすぐらいの餌を与えるようにするが、他方食べ過ぎないように注意する。残餌やフンなどが貯まらないようにし、エアレーション、ろ過フィルター、水の循環などに注意を払う。良好な水質は、特にザリガニの幼体に対して重要である。捕食行動や水質は注視する必要がある。

表1  レッドクロウの孵化に必要な水質

パラメーター 推奨範囲

温度 華氏80〜85度(摂氏27〜29度)
溶存酸素 5.0 ppm (mg/l)以上
アンモニア 0.5 ppm (mg/l)以下
亜硝酸 0.3 ppm (mg/l)以下
pH 7.5〜8.0
アルカリ 100 ppm(mg/l)以上
総硬度 50 ppm(mg/l)以上
塩化物 50 ppm(mg/l)以上

孵化水槽内での幼体の生存率は50〜70パーセントが良い。幼体の体長が1〜1.5インチ(2.5〜3.8センチメートル)、体重が0.04オンス(1グラム)になったら、幼体を成体用又は生産用の池に移す。


X 池での生産

深さ3〜4フィート(90〜120センチメートル)で底床にスロープがあり排水システムを有する普通の魚類養殖用池はレッドクロウの養殖に適する。0.25〜2エーカー(1000〜8000平方メートル)の池がレッドクロウの生産に使われているが、管理や収穫に便利な1エーカー(4000平方メートル)以下の池をお勧めする。

オーバーンでの研究によれば、次のような方法を推奨する。

@ 春に水温が華氏70度(摂氏21度)以上になったら、体重1グラム以上の幼体を入れる。
A 1エーカー当たり1万〜2万匹(1平方平方メートル当たり2.5〜4.9匹)の密度とする。
B 干し草と市販の補助飼料を与える。
C 幼体を投入してから3〜4ヶ月後から、ザリガニ用トラップを使用して収穫を始める。
D 水温が華氏60度(摂氏16度)以下になったら、池の水を全部抜いて残りの全てを収穫する。

病気の感染や競合を避けるため、レッドクロウを投入する前に池から野生のザリガニを取り除く。他の生物や病気の混入を防ぐため、池にはできれば井戸水を注入する。天敵となるような水中昆虫の棲息を防ぐため、注水はザリガニ投入の数週間前になってから行う。
硬度が20ppm以下の場合は石灰を投入するとともに、プランクトンを繁殖させるため栄養分を投入する。池には孵化したばかりの幼体を入れるよりも1グラム以上(1オンス当たり28匹以内)の幼体を入れる方が生存率は格段に高まる。1エーカー当たり1万〜2万匹(1平方平方メートル当たり2.5〜4.9匹)を入れるのが、生存率及び生産高に最も良い結果をもたらす。干し草は、毎月1エーカー当たり500ポンド(1平方メートル当たり56グラム)を、池の周囲に撒く(2回に分けて撒くのがベスト)。干し草に加え、市販のザリガニ、エビ、魚類用の飼料を養殖の後半の時期に与える。市販の餌を与える量は、1日当たり、ザリガニの推定体重の1〜3パーセントであるが、池の面積1エーカー当たり35ポンド(1平方メートル当たり3.9グラム)を超えないようにする。
レッドクロウを生存させ成長させるため、水質の維持に努めなければならない。エアレーションは溶存酸素3ppm以上を維持するようにする。レッドクロウは水底に棲息しているので、水面近くでなく水底近くの水の酸素をチェックするようにする。成長期間が終わるまで、アンモニア及び亜硝酸のチェックを週2回行うが、推奨された量の餌を投入していれば普通問題は起こらない。水質が悪化したら、餌の投入を止め、できれば換水する。水質が悪いと、レッドクロウは脱走しようとする。適切に管理すれば、6ヶ月後には1エーカー当たり千〜千5百ポンド(1平方メートル当たり112〜168グラム)の生産が得られる。レッドクロウの個体は、平均2.5〜6オンス(70〜170グラム)になる。



Y 収穫

レッドクロウは、餌を入れたザリガニ用トラップの使用と池の全排水とにより収穫される。アメリカ原産ザリガニ用のトラップをレッドクロウにも利用できる。トラップはプラスティックでコーティングされた網目0.75インチほどのものである。トラップの餌には市販のザリガニ用や魚類用の配合飼料を使用する。最後の収穫は、池の全排水を実施し、泥の中からレッドクロウを集める。
他の方法として、フロー・トラップを使用する方法がある。フロー・トラップの中を水が流れ、レッドクロウはその水流に集まる。レッドクロウは、水の流れに好んで反応する習性があるためである。オーバーンでの研究によれば、フロー・トラップは、ザリガニを捕獲する際にとても良い結果を示している。フロー・トラップの中を通す水量は、1分当たり8ガロン(30リットル)を超えないようにし、同じ池の水よりも、他の池の水か井戸水を使う方が良い。
フロー・トラップの一つにボックス・ランプ・トラップというものがある。ボックス・ランプ・トラップは、水が送りこまれる耐水性のボックス(プラスチック製や金属製のドラムのようなもの)と水を水底に送り出すパイプ・ランプからできている。ザリガニは水の流れに逆らってパイプ・ランプ内を登り、ボックスの中に落ちると出られなくなる仕組みとなっている。フロー・トラップにはザリガニがいっぱいになって窒息死しないよう時々チェックしなければならない。


Z 病気

レッドクロウは、アメリカ原産ザリガニが罹患する病気のほとんど全てに罹患する。更に、レッドクロウは、「ザリガニ病(crayfish plague)」といわれる伝染病にも罹患する。北アメリカ原産のザリガニはその病気に感染するが、通常は発病しない。その病原菌は、北アメリカ原産のザリガニがヨーロッパに輸出された100年前までは問題にされていなかったが、ヨーロッパ原産のザリガニはその菌に耐性を有していなかったので、多くの在来種が死滅した。オーバーン大学での初期の研究で、レッドクロウもこの病原菌で罹患することが判明した。病原菌は華氏65度(摂氏18度)で最も増殖するが、華氏70度(摂氏21度)以上になると感染しない。このため、レッドクロウを健康に保つためには華氏70度(摂氏21度)以上にし、個体の移し替えや収穫のときの温度に注意を払えばこの問題を低減できる。病気の予防や治療については、オーバーンで現在研究中である。


[ 法律及び環境に関する制約


アメリカの多くの州で外来種の導入を制限しているので、レッドクロウや他の外来種を購入する前に州政府に問い合わせることが必要である。連邦法では、オーストラリア産のザリガニ、エビなどの甲殻類の導入を禁止していない。アラバマでは、外来種のザリガニの輸入やストックを禁止していない。
また、新種を導入する前に、それが環境に悪影響を与えることがないか調査することも必要である。レッドクロウが、アメリカで広く養殖されているアメリカザリガニに与える影響について、1990年からオーバーン大学で調査が始められたが、その結果、特にお互いに悪影響を及ぼすことなく両種が生存・成長・繁殖することが判明した。しかし、レッドクロウは冬には生き残れない。このことから、レッドクロウが逃亡しアメリカザリガニの棲息域に混入したとしても、冬の華氏50度(摂氏10度)以下の環境のためそこに根づくことはない。



\ マーケティング

アメリカでレッドクロウの価格がどのようなものになるかについては、不明であり、レッドクロウのマーケットを育成する必要がある。レッドクロウがアメリカ原産ザリガニと競合するようであれば、レッドクロウ生産に経済的なフィージビリティーはない。しかし、4〜6ポンドという大きさのため、レッドクロウはアメリカ原産ザリガニや大型ロブスターとは別のマーケットの範疇に入ると思われる。レッドクロウは注目されるアイテムであり、「スモール・ロブスター」として売り出せば、高値がつくというマーケティング専門家もいる。しかし、実際に供給がなされるまでは、マーケットにおける可能性は未知数である。レッドクロウの有利な点は、加工処理をせず生きたまま出荷できることである。不利な点は、寒冷期の生産が制約されるため、生産サイクル上年間を通じての供給ができないことである。
現在アラバマで生産されたレッドクロウの幼体が、鑑賞魚のマーケットに出荷されている。ライト・ブルーの体色とハサミの赤いパッチがアクアリストに受けて、高値がついているようである。いずれにせよ、マーケットは個々の生産者によって開発されなけらばならない。


] ファイナンス

レッドクロウの養殖は、他の農業活動などと同様、リスクを伴う。商業ベースでの大量生産に伴う問題、病気の問題、マーケットなどの可能性についてまだ殆ど知られていないため、レッドクロウ養殖のリスクが高いとされている。このため、養殖を始めるに当たっては当初控えめに行うことが賢明である。初めはゆっくりと、投資も最小限に抑え、徐々にマーケットを広げていくのが良い。