ザ リ ガ ニ の 脱 皮

皆さんソフト・シェル・クラブというものを食べたことがありますか? アメリカ東海岸のレストランなどで食べることができます。ソフト・シェル・クラブとは、その名のとおり、殻がフニャフニャの蟹のことで、殻の部分は肉と殆ど同じ柔らかさなので、殻があるというよりも殻のない蟹を食べているようなものです。丸ごとムシャムシャ食べることができるので、蟹の殻をむくあの面倒くささもありませんし、蟹味噌などの旨味を中に閉じ込めたまま料理することができるのです。ということで、美味しいわけです。

このソフト・シェル・クラブというのは、殻がやわらかい特別な種類の蟹であるわけではありません。ブルー・クラブというワタリガ二のような普通の蟹なのですが、脱皮後直ちに料理するから、ソフト・シェルなのです。カニ、エビ、ザリガニなどの甲殻類は、普段硬い殻に覆われていますが、脱皮したてのときは、身体の外側はフニャフニャで、時間とともに次第にそのフニャフニャが固まっていくのです。

というような話をして、ザリガニの脱皮の話につなげていこうという考えですが、いずれにせよ、脱皮したてのザリガニは、ソフト・シェル・クラブと同様美味しく丸ごといただけるはずです。ザリガニだけではありません。伊勢エビも同様のはずであり、一度でいいから、脱皮したてのソフト・シェル伊勢海老というものを食べてみたいなと思います。

さて、私はこれまで沢山のザリガニを飼育してきましたが、ザリガニの脱皮の決定的瞬間というものは、そうしばしば見られるわけではありません。ザリガニも人間様に見られている間は、警戒していて殻を脱がないのでしょう。ザリガニにとって、脱皮の瞬間というのは、最も脆弱で危険な瞬間だからです。私が目を離したスキに脱皮をされてしまい、戻ってみると既に殻が転がっていて、せっかくのチャンスを逃してしまったと何度も悔しい思いをしています。

そもそも、脱皮の兆候は2〜3日以上前から現れます。まず、食欲がなくなります。普段平らげていた餌を残すときは、脱皮の前兆である可能性があります。そして、この間に殻のカルシウム分を体内の胃石というものにどんどん還流させて蓄積しているのです。その結果、殻のカルシウム分がどんどん減少していきます。このため、脱皮が近づくと殻の色に若干の変化が見られます。そして、いよいよ脱皮が近づくと甲羅が浮き上がり、尾と甲羅の継ぎ目のところに1ミリぐらいの隙間が見られれば、24時間以内に脱皮する可能性が高いといえるでしょう。24時間ジッと水槽と睨めっこしているわけにもいきませんから、どうしても脱皮の瞬間を見たい人は、ビデオカメラを回しっぱなしにしておけばいいかもしれません。

それでは、脱皮の瞬間というものをご説明いたしましょう。

甲羅と尾の継ぎ目(背中側)がパカッと割れ、ザリガニが「くの字」になった後、ザリガニがニョロッと出てくるのです。身体はフニャフニャなので、ニョロッと出てきたというのがまさに適切な表現で、そして、これはアッという間の出来事なのです。

人間に例えて説明すれば、「くの字」に身体を前屈すれば、短めのズボンとシャツを着ている人の腰は地肌が丸出しになります。脱皮とは、前屈状態のままその腰の部分から洋服の外に一気に後方に飛び出すというイメージです。身体がゴムのようにフニャフニャであれば、それも可能でしょう。そして、それは、アッという間の出来事なのです。

脱皮したてのザリガニは本当にフニャフニャで、8本の足もフニャフニャなのでこれで身体を支えることもできませんし、長いハサミもフニャフニャなので持ち上げることさえもできません。ひたすら時間とともに固まるのを待つだけです。このタコのように軟体動物状態で無防備なときに敵が近づいてきたら、ただもがいて必死に逃げるだけです。

ザリガニの脱皮を初めて見たときは、まさに目から鱗でした。どうして脱皮する度に身体が大きくなるのだろう、殻がむける度に身体が小さくなるはずなのにと不思議に思っていたのですが、フニャフニャの身体を見て、これなら脱皮後に膨張できるのだと思いました。脱皮後フニャフニャの身体が膨張し、それから殻が固まります。そのようなメカニズムなので、脱皮の度に身体を大きくすることができるのです。

殻が元どおりの固さに戻るのに、最低でも3〜4日はかかるようです。その間に、胃石に溜め込んだカルシウム分をどんどん殻に戻していくのです。同時に、ザリガニは脱ぎ捨てた殻をムシャムシャときれいに食べてしまいます。これは貴重なカルシウム補給源となるのですから・・・。ちなみに、海水に生息するロブスターや伊勢海老は、脱皮後の殻を食べないそうです。海水中にはカルシウム分が十分溶け込んでいるので、その必要がないからです。

興味津々私が水槽の中をじっと覗き込み脱皮の始終を見てしまったのに対し、殻を脱ぎ捨てたばかりのザリガニさんが怯えた表情でこちらを見返していました。それもそのはず、この瞬間がザリガニにとって一番無防備で危険な瞬間であるとともに、食べる方にとってはソフトシェルにありつける一番美味しいご馳走の瞬間なのですから・・・。
脱皮動画(YouTube)
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長編
3:35 ホワイトザリガニ脱皮の一部始終が良く解る素晴らしい脱皮動画
9:58 レッドクロウ青個体の脱皮の一部始終
8:11 レッドクロウ脱皮の一部始終。ややピンボケ
6:30 ケイジャン・ドワーフの脱皮画像。最初の2分で脱皮
3:25 レッドクロウが早々と脱皮。脱皮後に魚に喰われるのではとハラハラドキドキの3分間。90度回転画像
短編
0:15 ブルーザリガニの脱皮の瞬間。水に黒い浮遊物が・・
0:44 フロリダ・ブルーの抜けた瞬間。ややピンボケだが・・・
1:59 レッドクロウの脱皮後の様子がよく解る
1:11 ウチダザリガニの脱皮。寄生虫が旧から新に移動する様子がつぶさに
2:00 青ザリガニの脱皮。殻脱ぎ直後に画面終了
2:11 石から落ちても頑張るフロリダ・ブルー